格闘技界の師匠インタビュー”The 匠”第1弾はノヴァ・ウニオンの総帥であるアンドレ・ペデネイラス
: ペデネイラスさんが柔術界の大師匠である事はもちろん知っていますが、まず始めに簡単に自己紹介をお願いします。
■ アンドレ・ペデネイラス:私の名前はアンドレ・ペデネイラスです。17歳の頃から柔術を始めて、21歳の時に黒帯を取りました。今はブラジルのノヴァ・ウニオンを代表の一人として、選手達を育成しています。
: 格闘技を教えていく上での1番の悩みは何ですか?
■ アンドレ・ペデネイラス:この仕事をしていく上で1番大事なのは、仕事とプライベートを分ける事ですね。なぜなら生徒がいっぱいいるので頼られるという事はもちろん、頼られた時に助けなくてはいけない存在じゃないですか。でもそればかりに気を取られてしまうと、私が家族と接する時間がなくなってしまうのです。例えば去年の年末、アメリカで行なわれたIFLの大会の帰りに飛行機に乗り遅れてしまって、飛行機の中で年を越してしまったんですね。でも家族には年明けまでには家に帰るからと伝えていたので、怒ってしまったんですよ。今回も3月22日が私の誕生日だったんですが、彼らの為に日本に来ているので家族にはかわいそうな思いをさせてしまったのです。そういう部分が1番の悩み所ですかね。
: 選手を指導していく上で、1番大切なのは何ですか?
■ アンドレ・ペデネイラス:いつも健康でいる事が大切だと教えています。それと出来るだけ精一杯努力をして、日々の練習をかかさずに頑張れと言っています。なぜなら普段練習をしているのは当たり前の事で、対戦相手だって努力をしてその成果を試合で出せるように頑張っているので、たった1時間の練習でも相手より劣ってしまったら差が出来てしまいますので、健康でいる事・練習をかかさず頑張る事が大切だと思っています。
: マルロンが「今日の自分より明日の自分のほうが強くなっていたい」、ペデネイラスさん・ハクランが「日々の努力が大切」と言っていましたが、そういうコメントを聞くとノヴァ・ウニオンの選手はメンタル面がすごく強いなと感じます。
■ アンドレ・ペデネイラス:メンタル面というのは人それぞれですが、普段の生活で身に付いてくるものもあると思います。なのでノヴァ・ウニオンの選手はメンタル面が強いと言っていましたが、それは彼ら個人個人が日々の生活から得たものではないでしょうか。それとノヴァ・ウニオンはブラジルの中で軽量級1位のチームだと認められているんですね。いつも同じ相手と練習をするのではなくて違う階級の選手やプロの選手と練習を積んでいく上で、試合に出た時に「自分はあの時あんなに強い選手と練習をしたんだ」「自分より階級が上の選手と練習をしたんだ」と思う事によって自信に繋がると思うので、色々な階級の選手・色々なタイプの選手と練習させるようにしています。なのでメンタル面が強くなるのではないかと思います。
: ブラジル人選手は長距離移動が必要、日本に来て減量もしなきゃいけない、言葉も通じない、そういう状況でも面白い試合をして圧勝する実力があるというのは相当すごい事だと思いますが、日本の選手が他国に行って試合をすると、苦戦したり負けてしまう事がブラジル人選手より多いと感じる時があります。日本とブラジルの違いは何だと思いますか?
■ アンドレ・ペデネイラス:生活の違いが大きいと思います。ブラジルには裕福な家庭の人もいますが、彼らのように生まれた場所が貧しい地域だと、人に頼るという事は出来ないんですよ。そういう部分で比べると、日本という国は経済面がとても優れているので、日々の生活で機械等何かしらに頼っているんですよね。ですがブラジルという国は例えばエレベーターなんてないですから階段を使うしかないんですよ。その中で生活をしていかなければならないので、まずそこで体力やメンタル面に差が出来るんですよね。後は例えば子供が2人いるとします。一人は親の元で育って社会に出ました。その子供は親が借りてくれたアパートに住みます。もう一人の子供は貧しい環境で育ちました。その2人の子供に同じ問題が発生したとします。裕福な家庭の子供は親に泣きつく事が出来る、でも貧しい環境で育った子供は誰にも頼る事が出来ないから自分で頑張るしかない。まずここでも違いが生まれますよね。そういう日々の生活環境で違いが生まれてくるんだと思います。だからブラジル人は遠い国での試合が決まっても迷いがないんです。そこで迷ってしまうと自分のチャンスがなくなってしまうので。でも日本人はそれだけじゃないですよね。例えばそこで負けて収入がなかったとしても死んだりはしませんよね。でもブラジル人は生活の為に命を賭けているんです。負けてしまったら次はないんです。そうなってしまうと家族を養っていけないんです。そのような環境の違いが非常に大きいと思います。
試合というのはやってみないと勝敗は分からないものですよね。ブラジルでは「ルーレット」って呼んでいるんですが、打撃が強いからといって必ずその選手は打撃で勝てるわけではないですよね。たまたまじゃないかも知れないですが「殴ったら入ってしまった」それで勝利したという事を「ルーレット」と呼んでいるんですよ。なので試合に挑む気持ちが一番大事なんですよ。
逆に質問します。ノヴァ・ウニオンには40人近くの道場生がいます。その中で裕福な人は何人いると思いますか?
: ・・・たぶん0人じゃないですか?
■ アンドレ・ペデネイラス:その通りです。裕福な人は一人もいません。日本・アメリカは平均的な給料さえもらえれば生活していけますが、ブラジルはそれだけでは生活していけないんですよ。だから死に物狂いで頑張るんです。
: ペデネイラスさんの話だと環境の違いが大きいという事でしたが、日本の環境・ブラジルの環境というのは変えられないじゃないですか。その中で日本人選手が世界に通用していく選手になる為には、どうしたらいいと思いますか?
■ アンドレ・ペデネイラス:やっぱり外に出る事、日本以外の国に行って経験を積む事が大事です。日本人選手はテレビを見て「あのアメリカ人の選手すごいな、立派だな」と思っても「俺には無理だな」って見てるだけなんですよ。実際にやってもいないのに無理だと諦めてしまう、それによってチャンスを潰してしまっているんです。諦めてしまう前に、色んな国に行って色んな道場で練習をしてみてほしいです。そうすれば「俺は色んな経験を積んできたから、この選手といい勝負出来るんじゃないか」って感じるはずなんですよ。でも日本人は自分の枠から出ようとしないですよね。自分から行こうとしないんですよ。なぜなら「辛い思いをしたくない」「普段慣れている生活が変わってしまうのが嫌だから」と思ってしまう、それではダメだと思います。行ってみる事によって、自分に秘められた能力や実力が発揮出来るかもしれないじゃないですか。そのチャンスすら掴もうとしていない気がします。まずは自分の殻を破ってみるといいんじゃないでしょうか。
名前は伏せますが、自分は日本人選手にオファーを出したんですよ。名前も売れている選手で実力もある選手なんですが、その選手に「ブラジルで試合をしないか?」と言ったら、こちらの予想以上の額を要求されてしまったんです。それでも「スポンサーを探してその金額を払うから来てくれ」と言ったんです。ですが結局ダメだったんです。理由を聞いたら「日本以外で試合はしたくない」という事でした。
: 色々事情があったんでしょうね。日本は国が守ってくれる部分がたくさんあると思います。自分や家族が普通の生活が送れるのは、国が裕福だからだと思います。でもその部分は変えられない実状です。日本人選手にもブラジル人選手のように頑張ってもらいたい、世界に通用する選手であってほしいです。「これだけ競技人口がいてマーケットがあるにもかかわらず結果が残せない」それは良い事ではありません。色んな格闘技の師匠に、これからもパンクラスはインタビューをしていこうと思っていますので、また何か気づいた事があれば教えて下さい。
■ アンドレ・ペデネイラス:いつでも質問は受け付けていますので、聞いて下さい。逆に質問なんですが、なぜ日本人選手は海外で結果を残せないんだと思いますか?
: 最近では結果が残せるようになってきていると思いますが、それ以前は勝てる試合でも苦戦をしたり、負けたりする事が多くて悩ましかったです。これは10年間ずっと考え続けている事ですが、私は指導者ではないので技術面ではわかりませんが、例えばブラジルにはペデネイラスさんやマリオ・スペーヒー、フジマール・フェデリコなどみんなから慕われる心強い指導者がいるじゃないですか。日本にも確かに良い指導者は居ます、ブラジルほど確立されていないと思います。昔は「この師匠に弟子入りしたい」というのがありましたが、今はあまりないなと感じています。そういう部分も関係しているような気がします。
■ アンドレ・ペデネイラス:それは大きいですね。憧れの先生がいてその先生の下で強くなりたいと思っているから、選手は外に出るのですね。例えばブラジルの大会に日本人選手が出場して優勝したとします。その選手は日本に帰ってまた先生の下で稽古に励みますよね。そのブラジルの大会を見ていた選手はチャンピオンを生んだ先生に指導してもらいたいと思うじゃないですか。でも今は外で試合をする事自体少ないですよね。なので指導者側も選手を外に出していかないと、確立されていかないんですよ。
: 本当に貴重な意見を聞かせて頂き、ありがとうございました。最後の質問になります。今横に座っているマルロン、ハクランの事をどう思っていますか?
■ アンドレ・ペデネイラス:残念ながら自分は嘘をつけないので、とりあえずブサイクだなって思います(笑)まずブラジルから遠い日本まで試合をしにきた事がすごく立派な事だと思います。日々頑張って努力をしてここまでこれた事は素晴らしい事です。試合では勝つ事はもちろん大事ですが、もしも残念な結果になったとしても、その時は悲しい気持ちになると思いますが、きっといつか「あの日試合をして負けてしまったけど、プラスになった事があったな」って思ってもらえたら嬉しいです。もし日常生活で悪い事が起きてしまっても、いつか必ずプラスになる時が来ます。それを彼らに分かってもらえるように、そういう気持ちを持ってリングに上がってほしいなと思います。人生はひどい事が起きたらその時はひどい事だとしか思わないですよね。でも後になってプラスになったと思える時が来るので、それは彼らだけでなくみんなに分かってほしい事ですね。
: ありがとうございます!それではマルロン、ハクランに1つだけ質問です。ペデネイラスさんとマルロン、ハクランの間に壁があると思って下さい。2人にとってペデネイラスさんはどういう存在か正直な気持ちを教えて下さい。
■ マルロン・サンドロ:壁なんてないじゃないか(笑)!
■ ハクラン・ディアス:喋り終わった後に右をみたらビックリしちゃうよ(笑)
■ マルロン・サンドロ:先生は耳を塞いでて下さい!すごく先生を尊敬しています。それに自分にとって1番の親友でもあります。先生は誰にでも優しく友達のように接してくれます。見返りを求める事なくみんなに同じように接してくれますし、困った時はいつでも手を差し伸べてくれます。ただ残念なのはブサイクな事です(笑)
: かっこいいじゃないですか!
■ マルロン・サンドロ:眼鏡をかけたほうがいいよ!もしくは入院したほうがいい(笑)ここに壁があると思って本音で言って下さいね(笑)
■ アンドレ・ペデネイラス:かっこいいって言われている事に嫉妬しているんでしょ(笑)?
■ マルロン・サンドロ:・・・耳も大きいし鼻も大きいし。
: (笑)ハクランにとってペデネイラスさんはどういう存在ですか?
■ ハクラン・ディアス:マルロンが全部話しちゃったので同じになっちゃうかも知れないんですが、先生はいつでも友達でいてくれる存在だし、ジムでも立派な先生としてだけではなく、誰にでも気軽に接してくれます。誰がどんな状況であっても頼れる存在でいてくれるので、安心してトレーニングに励む事が出来るんです。それに常に人の為に何かをしようと思っている優しい心の持ち主です。先生を尊敬しています。