PANCRASE 1998 ADVANCE TOUR 1998.9.14 日本武道館

メインイベント キング・オブ・パンクラス・タイトルマッチ 30分1本勝負
  • ガイ・メッツァー
  • vs
  • 柳澤龍志
○ガイ・メッツァー(30分00秒、判定)柳澤龍志×

これは私は大いに言いたいことがあるんです。今回話をさせていただいた1試合から7試合までも含めてなんですが、かなり技術的に向上してきてるんですよ。どんな風に向上しててるのかなと言いますと、今までは例えば腕ひしぎに入るんであれば、腕ひしぎの形に入りかかってガ-ドする、もしくは腕ひしぎの形で技が崩れる、技が停止すると言うような形での攻防という部分では一般の方わかりやすい範囲の中だったと思うですね。で、そこで失敗すれば今度形勢を逆転出来るという部分があって試合も噛み合う部分があるんですが、今のパンクラスのリングはもっと進んでしまってるんですよ。要するに相手が技をしかける瞬間に、何と言いますか、モグラ叩きゲ-ムじゃないんですが、頭をヒュッとだす瞬間にもう受けての方が防御で相手の攻撃を殺してしまうと、要するに前にお話したかもしれないのですが最大の防御というのは、技を完成させてしまってからそれを防ぐのではなくて、技が未完成の間にいかにリスクの少ない時点で技をブロックしていくかというのが防御の最も安全な使いかたなんですよ。

そういう意味で技がちょっと出始めるところで技を止める、ちょっとしてからまた技を止めるという形に成りますからグラウンドの中での膠着の様な部分がすごく見受けられてしまって、お互いにすごくネガティブに、消極的に動いてるんではないかという風に感じる様な場面がここ数試合出てきてることは出てきてますね。そういうことも技術の向上ではあるんですが、なかなかそこは観客の皆さんの中には伝わりにくいところです。わかりにくいところです。ですからそういうところで何というか、徐々にお話が出来たらなと思っていたんです。

それでこのメッツァ-選手の闘い方なんですが、開始早々から得意のストレ-ト、それからキックを駆使して自分のペ-スを掴んでいきます。柳澤選手も気後れせず向かって行くんですが、もう少し構えがきちんと構えていけるというか、そういう部分が出てくるともう少しガ-ドもしやすいですが、その部分の構えのきちんとした差がでて打撃で優劣がちょっとつきやすくなってしまうということですね。

後はやはりコンビネ-ションがメッツァ-選手は速くて多いというところに注目していただきたいですね。ですから不完全な形であってもとりあえず次の打撃を繋げて前へ出ていくという、これが一番恐いんですよ。カウンタ-もとられる可能性もあるし、パンクラスのリングなら中途半端に打って出ていけばタックルでテ-クダウンを取られる可能性もあるわけですね。そういう部分も恐いのを重々知りながら前へ自分から出ていって打撃で詰めていくと、前に前に攻撃を波状的に出していくというところではやはりキングの闘い方ではないかなと思いました。

ここからなんですが、打撃でお互い数発打ちあった後にスタンドレスリングで組み合う形になるんですが、アマチュアレスリングでメッツァ-選手やはりタイトルを取っていることもありまして、実はメッツァ-選手はデビュ-当時からスタンドレスリングだけはメチャメチャ強いんですよ。あの背筋群の強さといい、肩口からの腕を引いていく、脇を締めていくという力に関してものすごく卓越しています。そして以外な事に腰高ではないんですよ、腰がすごく粘るんですね。相撲でいう粘り腰みたいんなものがものすごく強いんです。ですから身体全体の力がすごく強いので、がっちり組まれてしまうと組まれた相手は重心が伸びてしまうんですね。それがスタンドレスリングの基本なものですから、ですからそういう基本的なものをきちんとして、スタンドレスリングでまず自分の間合いをもう一度取り直すという形ですね。それからスタンドレスリングをいやがって相手が身体を浮かしてきたり、身体をちょっと横に広げるような形で逃げようとすれば右手を外して、左手で相手をホ-ルドしながら顔面とボディ-を打ちにいったりしますし、相手が嫌がって顔を下げてくれば腕を首に移して、ホ-ルドを首に移して膝蹴りに移行させたり、相手が嫌がってもう一度強引に払い腰等で投げてこようとしたら相手の腰から後ろに対して、背面投げといいますか、そういうかたちで後ろに投げ捨てるという、ス-プレックス系のもので投げ捨てるというような形で自分の組んだ後、スタンドレスリングの後にどういう風に攻めるかという定石をつくっているんですね。その辺がやはり絶対勝つんだと、彼も何回も苦汁をなめてきてからの王座ですから、それを守るんだということと、王座を穫るためにはそこまでル-ルの中で徹しなければパンクラスのリングでは勝てないと彼は見切ったんですよ。

ですから、スタンドレスリングを規準にして、どういう展開になったらなにをするんだという部分、そういう闘い方というのが柳澤選手にはちょっと取り入る隙はなかったと言う形だと思うんですね。何かクリンチの様に見えてしまうんですね。これは当然なんですよ。手の打ち合い等で、試合が流れない事、試合が潰れてしまうような形というのは、要するにお互いあのように組んで相手のパンチ等を打つ隙間をなくさせてしまうことと、打つ身体を不安定にさせておくということが一番安全だからなんですね。でも安全だからこそ打ち合うボクシングでは試合が出来ないからあれをクリンチという名前で呼んでボクシングでは反則技に指定している訳です。

でもパンクラスではそういう事はないですから、それも技術なんですね。ですから、何と言いますか、その部分の意識革命というのが選手も含めて皆さんのなかに少しないと、消極的なんではないかなと思うんですが違うんですね。メッツァー選手、あれは攻めてます。こういう考え方もできます。ああいう闘い方が例えば消極的なんじゃないのという風に言われるかもしれませんが、皆さん、格闘技ファンの皆さんもああいう闘い方を奨励しているんですよ。そんな覚えないよといわれるかもしれませんが、これはスタンドレスリングでの相手をホ-ルドする技術なんですよ。皆さんが奨励してるのはグランドレスリングで相手をホ-ルドして自分のやりたいことをいくつかに絞って闘っているやり方は奨励しているんです。それが柔術なんですね。マウントポジション然り、ガ-ドポジション然りというのが、足もしくは自分の身体の一部分を使って下になってる者、上になっている者の動きを封じて、そして、せいぜいこれしか出来ないだろうという動きに対してそれをカウンタ-の攻撃として、自分がなにを出そうかとじっと待っているというのが柔術の闘い方の基本です。

それが見事だというんであればメッツァー選手の闘い方もこれもまた見事というしかないです。地面の代わりにコーナーを使っただけの話です。地面の代わりに、何といいますか逆に地面の上に立たせてなおかつ相手をホ-ルドしているという事の技術的な高さというものをもう一度認識しないと、そこに技術性があるという事をついつい忘れてしまうと思います。パンクラスのチャンピオンはそういう意味で何かに卓越していなければならないということですね。グラウンドのポジション作りと、グラウンドのホ-ルドに長けてるから船木選手がチャンピオンになれてるわけですし、ルッテン選手然り、近藤選手然り、立って相手と離れた時の間合いが相手のコントロ-ルが上手いから打撃でタイトルを穫ったりする事が出来てるわけではないですか。メッツァ-選手はスタンドレスリングで相手をコントロ-ルするという事に長けててチャンピオンに成ることができたわけです 。それは決してクリンチではなくて、あれはスタンドでの相手のコントロ-ルであって、ガ-ドポジションやマウントポジションの攻防と同じように考えて欲しいです。

現にアルティメットでは、あまりにもグラウンドのマウントポジション等で相手が技を仕掛けて来ない、自分から技を仕掛けないという形でだらだら時間が流れることを嫌ってブレ-クというものが発生した訳じゃないですか。ですから全然違うものではないと言うことです。形に騙されないで内容に騙されて欲しいということですね。メッツァ-選手は技術的にどこが素晴らしいかといったら、相手の肩甲骨と、相手の前足ですね、立っている相手の前足とその腰の部分、その部分に微妙に体重をかけながら相手を真っ直ぐに立たせない、それで相手距離を嫌ってちょっと空間を空ければ下からアッパ-が入っていく、膝が入り、嫌がってくっついてきたら、試合でも、試合の後半柳澤選手の身体がちょっとつかれて支持力がなくなったら、いわゆるベアハッグのような形で背骨を折って相手の足を自分の方へ引き倒す様な形でグラウンドに持ち込んだりといった技術もみせていますから、そういうところも見てとっていただきたいというのが私の素直な感想ですね。

ただ、メッツァ-選手もですね今後チャンピオンとして堂々たるものを展開してもらうんであればグラウンドに入っても決定的な技を、ギブアップをとれる何か技をしかけてもらいたいなといったところで今回の日本武道館の試合は技術的にかなり上がって来ているんで、その部分の細かいところなんですがビデオで見返して私の言ったところが、これなんだなというところを見返して欲しいそんな5周年という形だったと思いますね。

5周年でこれだけ発達してきていますから、5周年たったことの一粒種の一つが渡部 謙吾選手のデビュ-という事もあります。ですからまだまだ、もっともっと、おもしろい選手や、おもしろい闘い方をするために変身してくる選手が出てくると思いますから、それは5年ではなく1年周期で変わってくると思いますから、また来年の今頃どんな試合の内容になるかという事で楽しみにさせてくれる、そんな9月14日でした。

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