よその団体のリングに上がるとか、よその団体の選手がパンクラスのリングに上がるとか、この関係というのは江戸時代初期の武者修行のようなものである。
 昔、武者修行というのは、一流の武芸者にならんがための手段だった。みなベースに流派に所属していて、道場で修行をしたのちに、さらに腕試しをしたいとか、さらに強い流派で修行をする。すべては自分自身を強くしたいための武者修行であった。
 他流派と無用な試合をしなかったのは、負けては看板(流派)に傷がつき、しいては雇い主(藩)の名誉にもかかわってくるからにほかならない。 ここ1年あまり、たいして目立ってはいないようだが着実にパンクラスは動いてきた。外に向かってである。武者修行と言ってもいい。また受け入れに対しても開放的で、ある程度のレベルであればどんどん出場できるようになった。
かつてU系といわれた時期があったが、その時期はすでに過ぎ去って、新しい時代に入っているのだ。選手の出入りはまさにラッシュのようである。参考までに名前を挙げてみると…。
 鈴木みのるはコンテンダーズ、DEEP。
 渋谷修身も同。
 伊藤崇文はDEEP。
 近藤有己はDEEP、プレミアム・チャレンジ。
 渡辺大介はDEEP。
 KEI山宮はコンテンダーズ。
 美濃輪育久はDEEP。
 謙吾はDEEP。
 佐藤光留は串間ファイト、DEMOLITION
 窪田幸生はDEEP。
もちろん、よその選手がパンクラスに上がるケースも多い。
 [U−FILE CAMP.COM]の上山龍紀
 [和術慧舟會]星野勇二、岡見有信
 [A3]門馬秀貴
 [SKアブソリュート]竹内出、和田拓也
 [フリー]関直喜

 フリーの関選手は、そのコメントで「パンクラスはすごく入りたくて、テストも受けたことがある。鈴木さん、高橋さん、渋谷さん、伊藤さん、美濃輪さんとかが大好きで、そういう人たちを敵に回して闘うんで、凄い勇気がいりました。パンクラスに上がるのが7〜8年の夢でした」とパンクラスというリングを“偶像化”している。アマチュア選手にとって、いかにパンクラスというブランドが大きなものだったか。そして、その団体に出場できたことを噛みしめているのだ。
 パンクラスはブランドであり、だからフリーや他団体の選手がパンクラスに出たいと思う。そして、それを受け入れるところに、現在のパンクラスの良さがあるのだと言える。
 尾崎允実社長が言う。
「パンクラスの旗揚げ当初から固定したことを考えていなかった。パンクラスというのはハイブリッドということで、新しいものを否定したこともない。当時、アルティメットのようなケージファイトも否定しなかった。最初から否定することはプラスにはならないという考えがあった。二兎追うもの一兎をも得ずというが、パンクラスは四兎も五兎も、追いかけたいものは追いかけるという精神。受け入れられるものは受け入れようとする精神なので、必然的にいまのようにいろんな選手をリングに上げることになる」
 話が変わる。
 昨年、11月の鈴木みのるとライガー戦をきっかけに新日本と密接になってきた。そのおかげで新日本5・2東京ドームでは、謙吾が“猪木の秘蔵っ子”町田龍人(マチダ リョウト)とバーリ・トゥードで対戦することになった。
 町田はブラジルで空手を小さな時からやってきた。父は日本人で小さい頃から空手で鍛え、厳しく育った。はっきり言って、日本人よりも日本人らしい教育を受けてきたと言っていい。ハングリーで、格闘家としてお金を稼ぎ家族を支援したいという気持ちがある。
 パンクラスや新日本などの団体に入りたいとか、有名になりたいとか、そういう憧れ的なものとは違って、生活のために懸命にならなければいけない、追いつめられた切迫感のようなものがあるのだ。
 だから謙吾も覚悟をしなければならない。気持ちは看板を背負った武者修行である。
「勝ち負けは関係ない。謙吾がこの試合で、ファンに激しい魂を見せつけたルッテンとのデビュー戦に戻ることを期待しているんです。負けることを怖がって、小さな試合をして欲しくない。あの時、謙吾は自分で描いていたプロというものを見せつけた。それをまた見せて欲しい。新日本のリングだから、余計に小じんまりしたものではなく、プロとしての凄い闘いを見せて欲しい」(尾崎社長)
 注目の謙吾vs町田。その後の新日本との関係も楽しみだ。ボーダレスと言われる格闘技界。いまパンクラスはモデレーター(調停者、仲介者という意味で総合とプロレスの差別意識をなくすために仲裁的な役割を担った組織)としてのプロローグを終え、いよいよ第一章に突入しようとしている。