今回は再び、近藤有己のことについて書こうと思う。近藤と菊田の再戦が11月30日にあるからだ。
その前にちょっとだけ気になることを書かせてもらいたい。と、言ってもこの原稿を中堅の選手が読んでくれていなければ、お話にならない。 先日、ピーズラボ東京の富山浩宇がJTC西関東大会トーナメントで優勝した。全試合KO勝ち。気持ちのいい試合というのは、そういうことだろう。聞けば富山は以前、ピーズラボからインストラクターになったが、それを辞め、再び、試合に出るために他でバイトをしながらピーズラボで練習をしたという。
ネオブラッドで優勝した稲垣組の前田吉朗は10/4大阪で渡辺智史と対戦。仲間の武重の敵を取った。アマ出身者の活躍は実に見事と言うしかない。
彼らは昼間、仕事をやっている身である。それを考えると、本当に素晴らしいと思ってしまう。二束のわらじを履いていながら、一方の格闘技で成績を上げるというのは、なかなかできることではないからだ。
これまでも何度か、当連載で書いているが、パンクラスの伊藤を筆頭に渡辺などの中堅選手は自分たちのことをどう思っているのだろうか。こういうアマ出身者の活躍を見て「プロとはテクニックのレベルが違うから…」と何も感じないのだろうか。
プロとしてアピールだけはする。しかし、ちゃんと1本で勝ってないのにアピールだけはする。はっきり言って、見ているお客さんのほうが気恥ずかしい。
プロはお客さんがすべてである。


自分には船木や鈴木や高橋のような強烈な個性がないと感じているのは近藤有己である。船木のようにものごとを突き詰めて考えるタイプでもないし、鈴木のような気の利いた言葉も持っていない。かといって高橋のような凶暴性もない。
個性がないから近藤は「俺は試合できっちりと勝つことで自分をアピールするしかない」と考えているのだ。
昔、近藤は渋谷修身と比較されて、ウサギと言われた。なかなか芽が出ない渋谷がカメである。それを言ったのは船木だった。近藤が鈴木を破り、船木を破ってキング・オブ・パンクラスのベルトを獲ったのはデビュー1年半足らずの頃。今で言うと前出の富山や前田と同じような感じではないかと思う。
近藤のウサギぶりは凄かった。が、当時の近藤はそのことを話題にするといつも首を傾げたものだった。「僕はウサギじゃないと思うんですけど」と言うのだ。
近藤は自分自身がいかにのんびりとした人間なのかを知っているから、ウサギと形容されるのが不思議で仕方なかったのである。
結論を言えば、近藤はカメだった。ただ仲間のカメよりは早いカメだった。だが基本的に自分ののんびりとした速度をきちんと守った。守ったというより、自分がコツコツ型であることを一番よく知っていたのだろう。近藤はいつしか「達人」に近づきたいと思うようになった。そう思うことで誰を意識することなく、コツコツと前に進めるからだ。

達人にはなかなか成れるものではないが、達人になるために、近藤はいまの自分の実力を知りたかった。それが8月31日のジョシュ・バーネット戦であった。近藤はなんと30キロ差もあり、高いテクニックを持っているジョシュとどれくらい闘えるのか、自分を試したかったのだ。
おそらく菊田と闘った時(5/18横浜)の自信も追い風になったのだろう。しかし、結果はきっちりと仕留められ、ベルトを奪われた。近藤は恥じた。
ここから近藤の言葉を書いていきたい。
「自分の雑さ。それを試合に感じていた。技のひとつを返すにしても、パンチひとつにしても。その日に雑だったんじゃなく、これまでも雑だったんだと気づいたんです」
 −雑になった原因は分かったのか。
「それは、いままで同じ体重でやっていたんで気がつかなかったんだと思うんです。雑な技術の返し方をしても、ある程度、返すことができましたから。だけどジョシュ・バーネットの場合はちゃんとした技術があって、あの体格もあるので、僕のような雑な技術じゃ通じなかったんですよ。あらためて映像を見ました。ああ、ここをもっと正確にやれていれば良かったな。そうしたら通じていたなと思います。反省するところはたくさん見つかりました。目的意識もむこうのほうが高かったようにも思えます」
 ジョシュ・バーネット戦で近藤はまたひとつ大きなことに気づいた。11月30日、菊田との試合を控えて、近藤は言う。
「菊田さんとの試合はイズムとかグラバカとか、そういう対立の尺じゃなくて、その先のもっと大きいものを見て闘いたい」
 この言葉の裏に菊田早苗に対する自信を感じるのは私だけだろうか。それはジョシュ・バーネット戦から得た確信に近い勝利宣言のような気がしてならない。