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4月17日、伊藤崇文選手がキックデビューを果たしました。
伊藤選手にとっては、2002年9月の『DEEP2001』以来、2年7ヶ月ぶりの他団体参戦、それも総合ではなくキック。一体どんな試合になるのでしょう。
心なしか緊張しているように見えた伊藤選手でしたが、のっけから攻めまくります。ダブルノックダウンを取られたものの、さらに2つのダウンを奪い、見事にKO勝利。1ラウンド、わずか2分45秒のことでした。
ここしばらくの伊藤選手には、言葉だけが先走っているような印象がありました。“ismがどうあるべきか?”というテーマは一貫していたけれど、伊藤選手自身が自分の言葉に飲み込まれてしまっているように見えることもしばしば。
でも、この日の伊藤選手には、久しく見られなかった爽やかさが漂っていました。勝った時でさえまとわりついていた暗い影は消え、憑き物が落ちたようなスッキリした表情。キック挑戦は正解だったんだな、と伝わってくるような笑顔でした。
伊藤選手がキックに挑戦すると聞いた時は、正直「なぜ今さらキックを?」と思いました。入門して10年、寝技には人一倍こだわってきたはずです。それなのに・・・。でも、10年というキャリアを持つからこそのキック挑戦だったのです。
どの世界でも似たようなことはあると思いますが、長くなればなるほど、上の人がどんどんいなくなっていくもの。つまり、叱ってくれる人がいなくなってしまうんですよね。
だから時に、人に教えを乞う場が必要になるのではないでしょうか。大人用の漢字や計算のドリルが売れたり、習い事が盛んだったりするのも、単なる知識欲だけではない気がしてなりません。
人を叱ることは、つらいこと。「指導する立場」には、常に責任が伴います。でも「指導される立場」には、それがありません。何も考えず、思い切り自分のためだけに打ち込める。新しいことを始めるということは、そういう場所を獲得することでもあります。大人だって、いつも大人でいるのはつらいのです。
道場長として後輩を指導する立場にある伊藤選手にも、きっと「叱ってもらえる場」が必要だったに違いありません。だから、これまで全くと言っていいほど重点を置いてこなかった、打撃の1年生になったのです。
また、キックに目を向けたのには、もう1つ理由があります。
怪我で休んでいる間、伊藤選手は、これまでの自分のビデオを改めて検証しました。「小さいパンチばかりだ。これでは決め手がない」。総合の世界でも打撃の比重が重くなってきている今、このままではいけない。でも、打撃をやれば、また怪我をしてしまうかも知れない・・・。
でも伊藤選手は、リスクから逃げない道を選んだのです。そしてそれは、自分のためだけでなく、後輩たちに、パンクラシストとして自分の姿を見せるためでもありました。
いったん決めたら突き進むのが、伊藤選手の良いところ。AJジムでかなり打撃の練習を積んだようです。正直言ってキックもパンチも、まだまだ危なっかしかった。でも、その分、気持ちがストレートに伝わってきたのかも知れません。全く休まず、前へ前へと出る姿勢。様子を見たり、距離をとろうとなんてしやしない。なりふり構わず相手に向かっていく姿は、これまで聞いたどんな言葉よりも説得力がありました。今、伊藤選手はパンクラスを背負って闘っているのだ、と。
「ほんと新鮮でした。デビュー戦の時の気持ちを思い出しました。今また、ハイブリッドをやってるんですよ。僕はパンクラシストだから。かっこいいでしょ? ざまぁみろ、です」と笑う伊藤選手は、テストで100点を取った子供のようでした。33歳の1年生は、どうやら一つ壁を乗り超えたようです。
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