6月5日の大森大会で、3ヶ月ぶりに【パンクラス アテナ】2試合がおこなわれ、パンクラス所属選手がそろって勝利を挙げました。
 1人目はパンクラス稲垣組の伊藤あすか選手。4月の梅田大会で腕ひしぎ十字固めを極め、見事に1本勝ちしたことは、まだ記憶に新しいところです。今回は判定勝利でしたが、ポジションやパスの華麗さ、積極的な攻めが印象に残った人も多いことでしょう。
 伊藤は、愛知県津島市出身。学生時代にバスケットボールをやっていましたが、それ以外には特に運動をしていませんでした。専門学校入学を機に大阪に転居。たまたま周りの友人がスポーツを始めたのを見て、自分も何かやってみようと、近所にあるP's LAB大阪の会員になりました。
「格闘技は初めてでしたけど、抵抗は全然なかったですね。もともと身体を動かすのは好きでしたし、見るよりやる方が面白いです」
 初めての格闘技は思い通りにいかないことばかり。でも、やれないことに挑戦していくのが大きな楽しみでもあり、すっかり格闘技にハマってしまったそうです。
 稲垣組の男子選手がそうであるように、伊藤もまた、稲垣克臣を全面信頼し、練習に打ち込んでいます。スパーリングは週4〜5日おこない、ウェイトも含めれば週に6日は練習しているという伊藤。これからの活躍が待たれます。

 そして、もう1人の勝利者は、パンクラスismのWINDY智美選手です。キックボクシングでは6年のキャリアを持ち、WPKL世界女子スーパー・バンタム級5位にランクイン。そのキックの実力を発揮して鋭いローとパンチ。身長が13cmも高い相手に、果敢に懐に入って攻撃。つけ入る隙を全く与えません。全身に殺気をみなぎらせ、その攻撃の非情さは“女子最恐”の名にふさわしいものでした。
 WINDYは、青森県三戸郡出身。小さい頃は、勉強はちょっぴり苦手だけれど、身体を動かすのが大好きな、どこにでもいる普通の女の子でした。人と喧嘩などすることもなかった少女が格闘技に出会ったのは、小学6年生の時。よく通っていた図書館の近くに、空手の道場があったのです。
「面白そう。やってみたいな」
 ご両親は「女が格闘技なんて、とんでもない!」と大反対。“どうしてもやると言うなら、月謝も空手着も自分で用意しろ”という条件を出されてしまいます。でもWINDYはあとへ引かず、お金を貯めて道場に入門。空手の楽しさにのめり込んでいきました。極真空手全日本4位、正道会館東日本優勝など、数多くのトーナメントで優勝を飾りますが、なんと道場の先生と喧嘩をして空手をやめてしまいます。
「先生と、だんだん考え方が違ってきてしまったんです。先生は、道場生を増やすことに一生懸命な人で。それに、どちらかというと、女の子は闘うよりも礼儀が大切、という感じだったんですね。それは、もちろん大事なことなんですけど、でも、もっともっと空手を集中して教えてほしかった。私も思ったことははっきり主張する方だから、とうとう喧嘩になって、それでやめてしまったんです」
 でも、どうしても格闘技を続けたかったWINDYは、近所にあったキックボクシングのジムに通いはじめます。1999年4月にプロデビュー。そして、2001年、海外遠征の時に立ち寄ったオランダのキックジムで衝撃を受けたのです。
「オランダでの経験は、今の自分にとってすごく大きいですね。オランダでは男も女も関係なくて、ジムにも女性がたくさんいました。それに大会は、ごく普通に、男子の試合も女子の試合も一緒におこなわれるんです。びっくりしました。性別に関係なく、本当に実力次第。強い人、知名度のある人が上にいける。それだけに、みんなのレベルの高さ、プロ意識の高さにも驚きましたね」
 以来、渡航費を貯め、3回に渡ってオランダ修行を敢行。名門・メジロジムで、技術だけでなく、プロ意識も学びました。倒しにいく、観客にアピールする・・・ここでの経験が“女子最恐”の原点となったのです。
 こうして女子キック界の第一人者として活躍してきたWINDY選手ですが、2002年から総合格闘技にも闘いの場を広げています。2004年からは、総合においてはパンクラスismとしてリングに上がるようになりました。
 ismでは、道場長の伊藤崇文選手はじめ、選手たちと一緒に練習を重ねています。もちろん内容は、男子選手と同じもの。女子だからと特別扱いはありません。中でも特に厳しいのは鈴木みのる選手。
「鈴木さんは、・・・怖かったですねぇ(笑)」
慣れない練習で疲労し、吐きそうになります。
「吐くなら吐け。でも、すぐ戻ってこい」
“最恐”WINDY選手をも怖れさせる、まさに鬼コーチでした。
「でも、そんな鈴木さんからいろんなことを教わりました。あの厳しい練習で、本当に鍛えられたと思います。ここまでやって来られたのも、鈴木さん、そしてismのみんなのおかげです」
 引退までには、パンクラスのリングに上がってみたいと思っていた。6月大会は、その夢がかなった日でした。だから、新しいコスチュームは、赤と黒のパンクラスカラー。また、背中にバッテンマークをデザインしたのは、ismの一員としてパンクラスを背負いたいという気持ちがあったからです。
 7月10日には、横浜文化体育館という大舞台が待っています。
 相手は瀧本美咲選手(禅道会)。WINDYと同じく、空手をベースとし、寝技でも勝っている選手です。
「パンクラスの大舞台でやれるなんて、嬉しいです! 総合の練習を始めた3年前には考えられなかったことですから。頑張って良かったです」

 こうして、ようやくパンクラスからも女子選手が出てきました。
「誰でもみんな、いろんな形で闘っていますよね。たとえば、サラリーマンの人も闘っていると思うし、結婚して子どもを産んで育てるのも、ひとつの闘い。それが、私の場合は格闘技だったということ」(WINDY)
 男子に比べ、まだ歴史の浅い女子格闘技ですが、WINDYや伊藤のような選手たちが、今後の女子総合格闘技をリードしていってくれるのではないでしょうか。