12月4日、パンクラスism主催興行がディファ有明で行われます。選手たちがマッチメイクなど、スタッフ的業務にまで踏み込んだ興行は、これが初めてのこと。
 パンクラスは、「全方位外交」を掲げ、これまで多くの団体と積極的に交流してきました。また、外部との交流だけでなく、GRABAKAをはじめとした色々な新チームの誕生と消滅、パンクラスアテナの誕生、ism選手の他団体出場など、さまざまなできごとがありました。
 そんな中、「パンクラス本隊」として結束を固めてきたism。でも、必ずしもism選手の成績が良かったわけではありません。特にGRABAKAとの抗争以降、残念ながらファンの期待に十分応えてきたとは言えないでしょう。
 それは、単に勝敗だけの問題ではありません。他団体の選手がリングに上がれば、その選手の応援者が会場に来ます。これは、それまでパンクラスを知らなかった人たちに対して、パンクラスをアピールする絶好のチャンスだったはずです。でも、それを最大限に活かしてきたとは言えませんでした。また、個々の選手の成長はあっても、それをism全体の成長として提示することはできていなかったのではないでしょうか。こうして、パンクラスの大会なのに、ismの選手のカードがほとんど組まれないような大会もでてくるようになってしまいました。
 また、これまで、各選手がそれぞれismへの思いを口にすることはあっても、それがism全体としての動きとしてファンの心に伝わることも少なかったのではないでしょうか。本当はみんな、同じ方向を向いているはずなのに…。
 でも、主催興行と銘打つからには、ismとしての決意があるはずです。それは何なのでしょう。横浜道場を訪ねてみました。
 ismでは週3回、合同練習をおこなっています。練習の内容は、スパーリングが中心です。次々と相手を変え、黙々とスパーリングをこなす選手たち。すぐに熱気で包まれる道場。組み合うTシャツの背中が、みるみる汗で濡れていきます。小休憩を取る選手も、マットから目を離しません。組み合う選手に、まるで試合中のようにアドバイスを飛ばします。
 長いスパーリングの後は「補強」がおこなわれます。これは、ロープを使ってなわとびのように跳んだり、あおむけになってエビ状態で移動したり、腹筋、背筋など体力づくりのための練習です。見ているだけでも筋肉が痛くなってきそうなメニューですが、選手たちは声を出し合い、次々とこなしていきます。真剣だけれど柔らかい、不思議な空気。選手たちが信頼し合い、この場を大切にしている雰囲気が伝わってきました。こうして一緒に汗を流すことで、ismの選手たちは結束を固めてきたのです。

 練習後、道場長の伊藤崇文選手に話を聞きました。
 「結局、プロっていうのは、どういうものなのかっていうことなんですよ」
 伊藤選手は、そう口を切りました。
 プロとして一番大切なことは、「お金を出して見に行く価値があるかどうか」ということ。現在、格闘技の世界では、まず勝敗ありきになっています。それは、競技としては当然のことかも知れません。でも、ただ勝ちさえすれば、たとえどんなに退屈な内容でも、ダラダラした判定勝ちでもいいのでしょうか。「勝ちは勝ち」かも知れません。でも、プロに求められることは、ただ勝つことのみではないはずです。
 親戚でもなければ友人でもない、縁もゆかりもない人たちが、わざわざ会場に足を運ぶのはなぜでしょう。それは、夢を見たいからです。闘う選手の姿に自分を重ねて共感したり、また、自分とは違う存在に驚きを感じたり、勝敗を超えたところにある何かを感じたいからではないでしょうか。伊藤選手は、こう言います。
 「リングって、どうして高いところにあると思いますか? それは、非現実の世界だからですよ。日常の中では見られないような夢を見せる場所、それがリングなんです」
 ここ何年かで格闘技は格段に進歩し、アマチュアにも強い選手が増えてきました。ましてプロなら、強いのは当たり前。でも、ただ強いだけでは、他人に何かを伝えることはできません。「強いから見たい」ではなく、「お金を払ってでも見たい」と思わせるのがプロ、伊藤選手はそう考えています。
 今まで、これといった色がないように見えていたism。船木・鈴木時代を肌で知っている伊藤選手だけに、ismの現状には人一倍、危機感を感じてきました。でも同時に、道場長として仲間を見てきて、ismには「よそにはないものがある」と自信を持ってきました。今回の自主興行は、それを打ち出していく第一歩となります。

 また、ism主催興行実現の陰には、鈴木みのる選手の存在もあったようです。「きっかけはね、鈴木が、こんなのやったらどう? なんて言い始めたことなんですよ」と、尾崎社長は話してくれました。
 パンクラスのリングで試合をすることはなくなっても、人一倍、自分のホームを愛している鈴木選手。横浜道場で練習もし、ismをずっと見てきました。そんな鈴木選手だからこその提案だったのでしょう。
 また、伊藤選手は、こう言います。「昔は、パンクラスの選手だけで大会ができていました。まだ時間はかかるかも知れないけど、そういうパンクラスにしたい。いつか、ism同士でベルト争いをしたいですね」
 伊藤選手ひさしぶりの総合、近藤選手のキャッチレスリング、佐藤選手の旗揚げルール、大石選手の演武、金井選手の復帰戦、川村選手のデビュー戦、WINDY選手の試合…外から得てきたものと、内部で育ててきたものを、どうハイブリッド(雑種、混成)させてきたのか。まさに、ismの「今」を見せる最大の機会です。
 パンクラスを、パンクラスの手に取り戻すために。
 この大会がその第一歩になるかどうかは、ism選手1人1人の肩にかかっています。