メインイベント ライトヘビー級戦/5分3R
○郷野聡寛(2R 3分49秒、KO/スタンドのパンチ)渡辺大介×

今年、ここ2〜3戦、ちょっと試合に恵まれないという感の拭えない郷野選手。対してここ2〜3戦、結果として恵まれて来た渡辺 大介選手という中で、メインイベントに大抜擢という事だったと思います。これは若い選手、北岡選手も含めて、努力をして小さな結果が積み重なってというところで、誰でもチャンスはあるんだよという、1つの若い選手の発動を促すという事では、この渡辺 大介選手のメインイベンターというのは、大変意義のある事だと思います。特に私はプロデビュー出来るかどうか危ぶまれていた渡辺選手の見習い期間を知っているだけに、パンクラスの関係者からすると、渡辺 大介選手の第8試合・メインイベント出場というのは、大変感慨深いものだと思います。パンクラスの旗揚げからのファンの方は、私達と同じ様な感慨を持ってこのカードに期待してくれた方もいらっしゃったと思います。ある意味待ちに待ったカードだったのかも知れません。

試合の方は、私の判定では1Rで郷野選手のKO勝ちでした。私は今回メインレフェリーという職から外れていたので、リング下からの口頭での促しでメインレフェリーには声をかけたんですが、そのまま試合が流れましたので、それはメインレフェリーの判断です。反則ではないという事です。反則とか、そういうものであれば、試合を止めていわゆる協議というのが出来るのですが、こういう微妙な判定の部分が、試合を止めることができる明らかなものではないという部分で、担当したメインレフェリーの裁量に任せるのが現状ですから、試合はそのまま流れました。個人的に言わせてもらうならば、この試合は1Rのファーストダウンの時、渡辺選手がロープ際に倒れた際に、もう意識が飛んでいましたので、それで勝負があったなというところだと思います。私にはこの一戦、試合を見ながら感じた事がありました。というのは、郷野選手はここ2〜3戦、試合に恵まれませんでした。前回、両国大会でもローブローによって担架で退場というような結果でした。あの時に彼は最後まで試合を続けたいという、そういう言葉をはいていたんですが、バックステージに戻る時にタオルの下で「何の為に俺は練習でがんばってきたんだ」という涙を流して、鳴咽しながら彼は僕に訴えていました。実はそれは、その試合の為ではなくて、その試合の後、後、後、この後に出てくる大きなタイトルの為に努力が積み上がっているので、そういう意味では2〜3戦、ちょっと不本意な、自分の予期しないところでのエンディング、結果が続いても、腐らず目に見えないところで努力をして、そして高いところに自分の理想を持ち続けているというところでは、今日色々な選手に私は言いましたが、多くの選手はこういうスタイルを学ぶべきだと思います。

それは形を変えれば、旗揚げの頃を知っている私とすれば、旗揚げメンバーは当たり前の様に、この郷野選手の様な姿勢で練習をしていたという事です。これは先程も言いましたが、何々しなければならないという姿勢で取り組むんだとすれば、この水準まではいきません。もうこれぐらいの打撃力があるんだから後は良いじゃないか。これぐらいのグラウンドキープ力があって一本勝ち出来る出力もあるんだから、このくらいで良いじゃないかと思っても、身体を壊すギリギリまで敢えてトレーニングして自分を壊しつつ、身体を治しつつ試合に挑んでいく郷野選手の姿というものは、冷たく言えばある意味あたり前です。私から言わせれば、ある意味当たり前です。でも、その当たり前の事がなかなか出来ないのも世の中の常です。ですから、そういう意味では高い水準の人は、高い理想の元で、ちょっと遠回りして、時間がかかったけれども、やはり正統的な選手ときちんとこうやって試合をすれば、その努力の爆発的な伸び率というのは、多くの人に感銘を与えるだけの結果に繋がるんだなという事を多くの選手は学ぶべきです。皆、若い選手は科学的トレーニングだ何とかだという、効率を重視する練習が当たり前になってしまって、自分の身体を壊しつつも、どんどん無茶をしつつも努力をするという、精神的なものを失いつつあります。横着になっています。草の根の様な活動の仕方、そういうバックボーンが技術にも反映するというところで、私は郷野選手の試合を見ていて、これぐらい完成された試合を見たのは初めてです。そういう意味では、渡辺 大介選手は大変貧乏くじを引いてしまったかもしれません(笑)。

渡辺選手も、よ〜く試合のビデオを見てもらえば判ります。郷野選手のローキックとかに対して、足にダメージは残りましたが、郷野選手のパンチの雨霰の中でのフェイントのある強い右のローキックに対して、ちゃんと左足の脛でガードしてます。ディフェンスしています。そういう意味で私は、渡辺選手なかなかやるなと思いました。ただしここ数試合の良い時の渡辺 大介に比べると、ビデオを見比べれば判ります、ファイティングポーズが違います。これは何とは言いません。でも、渡辺選手は自分で見れば判ります。自分で見て反省すべきでしょう。それとセコンドワークで、渡辺選手とセコンドの意見が統一されていませんでした。渡辺選手はこう動かなければならないという、彼のセオリーをセコンドが理解していないので、セコンドの指示がちぐはぐでした。これも渡辺選手には可哀相だったかもしれません。という事は、もうそろそろ渡辺選手は普段の日常の練習をグンと厳しくして、自分の事が良く解る仲間を作って、そしてその仲間にセコンドというものを頼むべきです。それは年下であろうと、後輩であろうと、自分自身というものを守るのであれば、自分自身を知っている人間にそういうものは頼むべきです。そうしなければ、試合の時だけ来てセオリーを言われて、さっき言ったように何々しなければならないというような闘いしか出来ませんよ、という事です。自分はこうしたいんだ、こうやって闘いたいんだという事を解っている人間は、試合の中で、その辻褄が合わないところを、いかに辻褄を合わせてくれるかという事で、セコンドというのは役立ちます。そういう意味で渡辺選手はまだまだこれからです。ただ、間違いなく、大変強い郷野 聡寛という選手と当たれたという事、ましてや1試合で2回もKOされたんですから、この経験は来年に生かすべきです。そしてやはり、こういうメインイベントというものを経験したという実績で、来年は2試合メインイベントが組める様に更なる努力をすべきです。やはり涙でリングを去った郷野選手の数試合があるからこそ、今日の郷野選手があったのと同じ様に、1試合で2回もKOされて、寸評はきついです。でもそれを敢えて正面から受け止めて、今迄と同じ努力をするならば、その実は甘いと思います。決して効率良く前に進もうなんて思わずに、彼なりの不器用さで前に進んでいって、もっと高い所の水準を目指してもらいたいです。そういう意味では、若い選手の台頭、本当の意味でパンクラスらしさというのは何なのか?というところに気付かせてもらったロン・ウォーターマン。パンクラスを古くから見てきた長いファンの方はもう一回試合のビデオを見直してもらいたいところです。そうすれば私の言った意味が凄く良く解ると思います。もっともっとパンクラスらしさが、両国のような大きな会場を凌駕するように期待してます。