第8試合 ミドル級戦/5分3R
×國奥麒樹真(2R 1分31秒、TKO)三崎和雄○

三崎選手の右フックが良い形で國奥選手の左の額をカットしました。これで試合が直ぐ決まってしまったというか、バックリ切れ、國奥選手は試合後にトータルで7針ぐらい縫いました。試合後にドクターから状況説明がありましたが、骨膜が見えてしまい、額というのは皮下脂肪が無いと骨が直ぐ近いのでそうなってしまうのですが、そういう部分での危険な状況だという事でドクターストップという試合でした。経過としては、1Rは三崎選手が細かく相手を見て、速いローキックを中心に、形うんぬんよりも全身で蹴っていきます。格闘技の基本です。何と言っても三崎選手の速い攻撃が私は好きです。そういうローキックをベースに、1Rは様子を見て距離を詰めていきました。それを逆に細かくカットしながら自分の距離を見ていく中で、打撃、組技、スタンドの組みがあり、そこからテークダウンを取って、國奥選手らしい試合の展開になりました。そしてグラウンドで上を取って、終始攻め時を狙うという形でした。國奥選手の脇は相当堅いですから、1回あの形になってしまうと、観客の皆さんは何で下の選手は何とかならないのかと思うんですが、寝技軍団の三崎選手であってもさすがに國奥選手のコンプリートに入られてしまうと、なかなか自分のペースでは闘えなかった様です。1Rはそういう展開に終始しましたが、最終的には三崎選手もガードが堅いし、その状況からでも何かを仕掛けようという部分が強く残っていて、早く早く何かを仕掛けようとする形で、それを凌ぎながら自分のペースで打開策を練ろうとするというところでの1Rは、私の見る限り、そういう意味では伯仲していました。ですから判定を付けたとしても、1Rは國奥選手がテークダウンを取って上になっていますが、國奥ペースであるけれども、どちらかというと拮抗した試合という形だったと思います。

そして試合が動いたのが2Rに入ってからです。早々に今度は三崎選手がきれいなストレート系を打って来ます。三崎選手のストレートは何が良いかと言うと小振りで来ます。動きが大変小さくインサイドからパンチが伸びて来るので、お客さまからは凄く素直なパンチに見えますが、相手にしてみたらいきなり目の前に現れてくるようなパンチです。野球で言えば手元でホップする様なボールです。同じ速いのでもホップするかしないかで、野球は打たれるボール、遠くへ飛ばされてしまうボールと、バットに当て難いボールに分かれたりするのと同じ様に、いくら強く速く打っても軌道が見易いパンチと、軌道が物凄く見難いパンチがあります。そういう意味では2Rに入り、お互いの構え方、間合いが若干変わりました。これは意図してなのかどうかはわかりませんが、その中でそれを有利に使ったのが三崎選手です。そのパンチが良いタイミングで國奥選手の鼻先を捉え、それがちょっと効きました。國奥選手は少しダメージのある中で三崎選手の右フックが目尻をかすめたということで大きなカットとなりました。それだけ三崎選手は強く打っているという事、それがまず勝因です。私が、かのマイク・タイソンのトレーナーでもある、カス・ダマト氏のジムを訪問した時、そこのジムで一番初めに習った事は、コンビネーションうんぬんよりも、まず強く打つ事を学びました。それは何でもかんでも強く打つ事ではありません。強く打てるという事は、安定してなければ打てないという事です。サンドバッグを単発で思い切り打つ練習ではありません。人形が置いてあって、それに対して言われた場所を続けざまに強く打っていくという練習は、実はステップの練習と共に、パンチの基本である自分を崩さないで強く打つという事を学ぶ事なんですが、そういう意味では三崎選手は柔道で鍛えた強靭な足腰によって、そういうものを勝ち得ているということかも知れません。

大石選手の所でも言ったのですが、それに対して國奥選手には打撃に関してややリードという下馬評が当然あったと思うし、三崎選手の中ではスタンドの打撃に付き合わない形で、スタンドレスリングとグラウンドで自分の勝機にいかに導くかという事が多分試合前の三崎選手の戦略イメージだったと思うし、逆に國奥選手はスタンドのレスリングの凌ぎ合いの所で、いかに自分が打撃を行使して主導権を取っていくかという所に勝機があったと思います。実際のリングの闘いの中で、それが知らず知らずの内に逆転してしまいました。それは単に一人一人の能力うんぬんではなくて、相手あっての試合の流れというもので出てきます。そういう中で國奥選手は打つ事よりも、組む事を前提にして打撃を練習しないと、そろそろいけないと思います。2人の打撃を敢えて優劣するならば、足を使って打っていく三崎選手に対して、足を止めて打ち合おうとした國奥選手の差です。ほんの数mmです。実は強く当たればカットはされません。カットはほんの少しのズレとかで皮膚がスリップした時に切れるので、逆にある意味見切れたり反応してるからカットされてしまう事があります。敢えて相手のパンチが流れて、カットするという事もありますが、今回はそういうこ事であったとすると、今後ミドル級でやっていくとするならば、もう一度ウェルターとのWでベルトを巻こうとするならば、國奥選手の修正、今一つその部分を改善していく余地があからさまになったのではと思います。組合を前提にしてショートレンジでパンチを打っていく事の一つの解り易い事象は、先の菊田vs近藤戦で最後の勝負を決したKOパンチ、近藤選手がみまった、組んで行く間合いの中で小さく放った、ああいうKOパンチです。あの様な距離間が必要です。打ち合う距離と組み合う距離を分けて考えている選手は、これからパンクラスのリングでは脱落していきます。一つの間合いで全部闘える選手が実はトップランキングを保っていく、私は一つのターニングポイントだと思います。2004年はそこが勝負の年、そんな事になっていくのではないかと思います。それだからこそ、実はハイブリッドなんです。それはパンクラスのリングでしか見れません。