第6試合 フェザー級戦/5分3R
○前田吉朗(2R 0分25秒、KO/グラウンドのパンチによる)アレッシャンドリ・ソッカ×

デビュー戦から7連勝中の前田選手。対して柔術の技術の高さが大変評価されているソッカ選手。2R0分25秒、グラウンドのパンチによるKOで、前田選手は近藤選手と並ぶデビュー8連勝が記録されました。大阪の会場はそれで大歓声に包まれて凄く良い雰囲気で大会が終わりました。「このマッチメークで、久しぶりの会場でどうなるんだろうね?」という、そういうドキドキわくわくする雰囲気で観客の皆さんが会場に足を運んでくれて、明らかに会場に足を運ぶ時からその話題で終始しているという点で、そういう選手が久しぶりに登場したというのがパンクラスとして大変嬉しい事です。その影には、私は試合後に一番初めに誉めた人というのは、実は稲垣君です。普通並みの選手ならこれぐらい勝ってくると、ちょっと道を反れたりするんですが、前田選手を見ていると顔つきもそれなりになってきています。これを統括している稲垣というのはさすがだなと思いました。稲垣組の選手の立ち居振舞いを見ても日に日に良くなります。何を持ってしても稲垣君抜きに前田選手を語れません。

さて試合の方ですが、私は今まで色々な柔術家を見てきましたが、リング上のソッカ選手を見ていて、あれ程関心したのは初めてです。上手かった!これは前田選手だから勝てたんだなと思います。前田選手の強さはアドリブの強さです。セオリーを持っていないこと。つまり柔術のセオリー、総合のセオリーというのを彼は持っていないし、拘っていません。それを指導している稲垣君も持っていません。やる事は単純で、自分の不利な状態にいつまでもいない事です。嫌なら嫌と直ぐ判断して、直ぐ対処して、対処する事が目的なので、対処する手段に対してはあまり拘りません。なるべくシンプルで簡単な対処の仕方をしています。これは物事を成功させるのに、どんな事でも共通する事です。要するに戦略は立ててあるし、それへの対応力は持ち併せて練習をしているけれども、戦術に目標がありません。私はその部分でソッカ選手は対応しかねたシーンを何度か見ました。これが面白かったです。単純です。前田選手はキックを取られて、そこから通常だと一生懸命片足でバランスを取りながら組み合い、柔術ならば半ば飛びつきながら下からガードを固める、もしくは取られた足を何とか振りほどこうと相手にくっついて転ばないようにするというのが、一つの流れとセオリーです。前田選手は簡単で、取られた足で相手を蹴り押して突き放しました、それだけです(笑)。バックを取られチョークを取られそうになっても、チョークを防御する前に、そのポジションをさっさと入れ替えようとします。ですからソッカ選手が想像した手順、ルールの中に前田選手は入りません。

さてこの闘い方は誰に似ているのかというと、いみじくも連勝記録に並んだ近藤選手の現在の闘い方、もしくは近藤選手が8連勝したデビュー当時もそうでした。相手とどうやるかという事ではなく、自分が殴りたいと思えば思い切り殴るし、前に出たいと思ったら前に思い切り出てきます。取り敢えず自分のやりたい事を暴れながらやって来たというところに、ベテランとして逆にそつなく対応しようとした人間は皆木っ端微塵にされました。このパターンで勝ってやろうと思った選手は全部パターンを崩されてしまいました。そういうものが実は勝負のセオリーなのかもしれません。という事はアドリブを利かせていく人間が、一番勝負の中では強いという事です。アドリブが出来るという事は、自分のしっかりとした闘うための手段をいくつも持っていないと出来ません。狙い打ちしか出来ない事ではありません。勝利を呼び込めるかは実はその点です。そういう意味では、稲垣君がいつもいつも前田選手が練習している時に、直ぐこれやる、何やる、そこは直ぐに何やる、どうするという、強い指示を送る癖がついてるのだと思います。リングの中でのそういう立ち居振舞いを見ると、今の世の中はHOW TO時代になってしまっていて、自由にさせられると何も出来ない若者が増えているとういう時代背景に凄く良く照らされると思います。それができるのは強い信念と、常に危機感を持って自分を突き動かしている人です。その様な事から、ある意味で前田選手は現代の反面的なところで自分の良さを伸ばしていけるチャンスを持った選手だと思いますから、次の試合は何の気負いもなく、いつもと同じ前田で闘って、パンクラスデビュー最多勝記録を作ってもらいたいなと思います。そんな試合でした。