メインイベント ライトヘビー級戦 5分3ラウンド
ランキング8位
山宮恵一郎
(パンクラスGRABAKA)

グスタボ・シム
(グレイシー・バッハ・コンバット・チーム)
3R 1分20秒、ギブアップ/ヒールホールド
■山宮恵一郎(89.2kg) セコンド:菊田早苗、郷野聡寛
■グスタボ・シム(89.1kg)
レフェリー:廣戸聡一

山宮選手は、回転の速いパンチを完封されてしまいました。それ程にシム選手の圧力は強かったです。山宮選手が細かいコンビネーションを出そうとする、最初の1発目で消されてしまいます。ですから、シム選手が前に前に出て行き、彼のミドル、ハイキック等、大変思い切りが良く、それがあんなスピードで飛んで来ると、山宮選手もなかなか入れないだろうなとお客様は思われたのではないでしょうか。山宮選手の真骨頂は、相手が入って来た時のカウンターのコンビネーションと、そしてローキックから自分でサイドから入って行くコンビネーションです。いずれにしてもそれが出せない展開で、山宮選手は低いタックルでテークダウンを取りに行くのですが、そこから止め返されて、逆に取られてしまいます。シム選手は、打、蹴、組、3拍子の、良い所が際立つ序盤の展開でした。1ラウンドの4分ぐらいはシム選手が上になり、山宮選手がハーフガード、若しくはフルガードで、ずっとコントロールされている状態でした。試合が動き出したのは、3ラウンドに入っておよそ30秒過ぎに、グラウンドの展開で山宮選手が起死回生の上を取りますが、その直後、シム選手は実に上手く山宮選手の踵を腕に引掛け、綺麗に小さく、素早く、全身で回転しました。その速度と力はもの凄く「アッ」と言う間に極まり、それはパンチのKOと同様で、ギブアップというよりは、KOという形のヒールホールドでした。一般的なものと比べると逆回転の技でしたが、左腕で足首を取り、体を綺麗に回転させ、見事な1本勝ちでした。山宮選手は何のガードも出来ずに終わりました。

例えばここで、佐藤光留選手とシム選手を比較した際の差は何かと言えば、シム選手はきっちり取れるところまで地道に行き、そこから思い切り良く行きます。佐藤選手は初めからこういう風にすると決めて、適当に思い切ってやってしまいます。質の高い選手は、今何をすべきか?という事を選択しながら試合をしつつ、最終的に自分の得意な形に持ち込める選手です。自分の局面で、絶対的に有利な箇所を肌で感じ、それを選択した瞬間、全力で決めに行く、思いきりの良い試合をする。それがシム選手の印象深いところです。彼は圧倒的な攻撃力をはっきりと見せてくれましたので、これはまた凄い選手が増えたなと思います。山宮選手は3ラウンドの1分過ぎまで良く耐えましたが、先手を取れなかったのが敗因かなと思います。次の機会に頑張りましょう。

今回の後楽園ホール大会で一つテーマがあるとするならば、攻撃的な選手、これは頭に血が上り、何でもかんでも前に出て行く、荒々しい、という事では無く、積極的な攻撃で、しかも展開を読み、局面で攻め込む機会を逃さず、畳み攻める、という事です。当たったと思ったらもう一度繰り出した折橋選手の右ローキック。あの様な場面のイメージです。お互いパンチを2、3発食らっても引かず、尚も打ち合いに行く野沢選手の攻防も素晴らしかったです。花澤選手の、相手に何もさせない波状攻撃の雨霰で動き続けるイメージ。竹内選手の、冷静で、尚且つ間髪入れず攻め続ける粘り強さ。相手を恐れず、どんどん自分のやるべき事を選択して攻撃を仕掛ける白井選手。その攻撃を凌ぎ続けながらも、必ず何かを返す機会を狙い、手を緩めない佐々木選手。そして、ここだと思う所で思い切りの良い技を見せてくれたグスタボ・シム選手。

この後楽園ホール大会は、思い切りの良い闘い方、知的な上に思い切りの良さが重要な要素だったと思います。勝つか負けるかという事も必要ですが、プロである以上、お客様にどよめかれる力というのは必要だと思います。そういう意味で名を挙げた選手に対して、当然お客様は「オ〜ッ!」という、何らかの反応を示してくれたと思います。一生涯にそうそう試合数はこなせません。その様な事から、勝ち負けも大切ですが、自分の人生で何戦するのかという中で、良い試合をしっかり提供しなくてはならないとするならば、まず勝つ為には積極的に、強い心で臨まなくてはならないという事をイメージしてもらえれば、今大会は良かったかなと思います。

また、これは私のプライベートな部分でのお話ですが、昨年の年末に大阪ドームで仕事をしました。私が担当した選手は外国人のタレントさんです。そのタレントさんがプロのリングに上がるという事で、しかもかなり難しい内容だったのですが、その対戦相手が、『K-1』では大変に有能なハードパンチャーであり、トップクラスの格闘家、『K-1』ファイターとして名のある選手とのマッチメークでした。私はこういうマッチメークというものは凄く大切な事だと思います。当前そのタレントさんを勝たせる為に練習をさせましたが、仮りにお互い長いキャリアがあったとしても、ワンパンチで終わってしまう場合もあるし、大きな怪我をどちらかが負う場合もあります。タレントさんとしては強いという人と、長年高いレベルの中で、体を張ってやってきているプロとは、体の硬さも強度も何も、質は全然違います。格闘技というのは、テニスや野球、ゴルフと違い、プロとアマが一緒にやって、それなりに結果が出て、それで何も起きないという競技ではありません。体自体が競技の標的なので、プロとアマが競うと、万が一にも不幸な事が起こると、取り返しの付かない事になってしまいます。そういう意味では、普段パンクラスのリングで試合をしている選手を見ていて常に安心はしていますが、昨年の年末は、不幸な結果にならない様に細心の注意を払って試合に臨みたいという所存を持っていました。