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村田選手は和術慧舟會A-3からの参戦で、前田選手とほぼ同体重の、コンディションも大変良さそうに見えてのリングインでした。前田選手はこれだけパンクラスのリングで連勝を積み重ねて来て、フェザー級のベルトを巻こうという勢いがある選手なので、やはり村田選手が物怖じしない、プレッシャーを感じないと言ったら嘘だと思います。その分を差し引いても、村田選手は積極的に前へ出ていったと思います。逆に前田選手としては、動く所は動く、見る所は見る、その部分に少し成長が見えたなという感じです。以前であれば、腹を空かした犬みたいなもので、何でもパッと前へ出ていってしまうのが見て取れたのですが、ベルトこそありませんが、そこはチャンピオンに相応しい余裕のある試合運びだったと思います。決して良い形で組ませず、決して良い形で立たせず、所々で強いものをみまう、厳しい技を仕掛けるという中で、自分のペースを作っていきました。途中、ポジション的に危ない所もありましたから、村田選手がそこで追い込む場面もありましたが、3分半過ぎから、前田選手が自分のペースを掴む展開になり、本当にセオリー通りに腕十字に入りましたので、村田選手はそこからは粘れなかったと思います。最後の腕十字ですが、腕十字の形に入ってからの前田選手の「腕を折るぞ!」という一言は、これは逆に言うと、極まったのだから下手に耐えると折れてしまいますよという事だと思います。この言葉は、抵抗するなら腕を折ってでも勝つぞという強い姿勢だと思います。そういうものが見えましたし、ハードパンチャーというイメージの強い前田選手ですが、体のこなし、グラウンドでの技のこなし、そういうものもやはり対外試合も含め、伊達に十数試合しているわけではありません。しかも半数以上は強豪と当てられているわけですから、そういう意味では本当に進化している姿をまざまざと見せた前田選手の試合だった様に思います。この後、対外的な大きな試合に臨みますので、大変楽しみな前田選手です。いつもの通り、いつもの様にというのが彼らしいところだと思いますので、普段通りの前田選手がそこで見られれば、普段通りの結果がそこで見られると思います。是非とも頑張ってもらいたいです。村田選手もこれで良い経験をしたと思いますし、ここからどうする?というのがプロの格闘家としての一つの道なので、頑張ってもらいたいと思います。 ■ 4.10梅田ステラホール大会総評 今大会の本戦3試合には稲垣組の選手が出場し、全勝でしたが、先程もお話しした通り、稲垣組の指導ゆえだと思います。展開が早いです。格闘技ではなく、武道でいう先(せん)の先(せん)です。どんな形であろうとも、物事に対して小さな内に対処する事です。実はこれが間合いの本当の意味です。自分が不利になるところまで相手の動きを許してはならず、不利を感じた時は既に決まっている時です。「まずい」と感じた時は、試合が決しているという事です。真剣勝負、果し合いの中で一部の隙も作らないという事は、「たかだかそんな事」というのは許さないという事です。だからこそ武道の世界は厳しいのです。「こうなってヤバくなったら、こう対処すれば良いじゃない」というのは、あくまでも対処療法です。対処するギリギリのところです。ですから、常勝に対処するセオリーはありません。強い人というのは、やりたい事だけスッとやって帰ってしまう。これが本当の強さです。ですから、これが稲垣組の日常の練習の中に存在するというのをファンの皆さんには見てもらいたいです。では、どこで見るのかと言ったら、セコンドとして付いている、稲垣組長の指示を聞けばわかります。「大丈夫、腕くるよ」、「足くるよ」、「今の効いたぞ!」等、それはある意味感想です。ですが、本当はそうではありません。口数ではなく、「今、何をどうするのか?」ということを、正確に短く伝えること、これはビジネスの世界でも何でもそうです。基本的な意思伝達の基本が出来ているという事です。稲垣氏の人間、人格形成がきちんと出来てますよという事です。その中で、映像で見ていただければわかりますが、稲垣氏が指示を出す時に決まって言う言葉は、「今」と「直ぐ」です。今直ぐ何をするかを伝えます。その「今」という瞬間が小さな勝負だと思います。小さな勝負ですが、今を制したから、その後に決めが唐突にやって来ることがあるわけです。 今を勝つ。今殴り、今蹴る。今直ぐに体勢をいれ返る。手前の「今」を制しなければ、その後の未来はやって来ませんよという事です。これは小学校の時に、今日出来ることは今日やりなさいという事を習ったはずです。宿題でも何でも皆さんそうだと思います、私はやりませんでしたが(苦笑)。そういう小さな対応、対処、これがいわゆる物事の対応力を作っていきます。ここで楽して勝とうとしたり、楽して物事をやろうとしたり、安易にやろうとするセオリーが出て来てしまうと、展開の中でこっちに特効薬的に使おう、対処的に使おうとやっていくと、そのセオリーに乗れない時は、にっちもさっちもいかなくなってしまいます。ですからそういう意味では、一拍遅い闘いになってしまうのは、セオリーのみで闘っている時です。 厳しい教育と、本能というものが芽生えた時に、「今」を制する強さが出てくるのだと思います。稲垣組にはそれがあります。厳しい稲垣組長という絶対的な存在があります。私が「こういう格闘技の世界では、絶対的な存在というのは本当に大切、必要ですよ」と言うのは実はそこにあるのです。今やるんです! お使いを頼んで、「後で行きます」では絶対駄目です。今、自分のやっている事を休めて、言われた事を直ぐにやるという事! これは人間を否定してるのではなく、そういう訓練が出来てるからこそ対応する事が出来、それが修行です。自分の事がいつも後回しになり、人に言われた事を直ぐに、目の前の事を直ぐに全て対応している内に、懐が深く大きくなる、引き出しが多くなる、それが対応力として臨機応変に自分のペースで物事が行えるという幅になります。そういう意味では良いリーダーに、そういうものが当たり前だと思っていて、本能的な男達がその人に付いたという事、その本能的なものが当たり前、普通だと思っている仲間達がいる。稲垣組は今、良い形で、色んな意味で恵まれていないかも知れません。今のスポーツジム等と比べて、そういう意味から言えばハードは満たされていないと思いますが、ソフトがこれだけ満たされている、スポーツのチームというのは極めて少ないと思います。今の読売ジャイアンツは全く対照的な位置にあるかも知れません。ハード面では満たされていますが、絶対的なシンボリックなものは無く、みんなそれぞれに自分のペースを重視してしまうが故に、絶対的な対処が出来ません。メジャーリーグベースボールで、個人的なレベルで許されるなんて言うのは、勝ち上がって来たから許されるのであって、それまでは皆、ものすごい競争社会の中で常に早く動く事を必要とされて来ているので、そういうプロセスを見ることなく、自由にやっていけるんだと思って物事に臨んでいたら大間違いです。パンクラスのリングも同じで、それでは勝てません。それを今回強く感じた稲垣組の活躍でした。 |