メインイベント ウェルター級 5分3ラウンド
ランキング6位
伊藤崇文
(パンクラスism)

アンディー・ウォン
(アジアン・インベイジョン)
3R 5:00、判定/2-1
判定:廣戸聡一(30-28)梅木良則(30-29)和田良覚(29-30)
■伊藤崇文(73.2kg) セコンド:渡辺大介
■アンディー・ウォン(74.9kg) セコンド:フラック・トリッグ
レフェリー:岡本浩稔

試合前のアップで両選手の動きを見ていて、ウォン選手は日本ではあまり名前の知られていない選手ですが、海外のイベントでは中々の成績を残している強豪選手です。身長こそあまり高くありませんが、体の厚みがあり、出力自体が大変強い選手です。とてもインテリジェンスのある選手で、意外に強敵、というよりも正に強敵、そういう選手でした。それに対して、ファンの方はキックボクサーに転向したイメージで、大丈夫なのかと感じだったのではと思います。そこのところは目に付く形がキックボクシングというニュースでファンの方には入って行きませんが、彼はismの道場長として、横浜の道場ではレスリングをたくさん練習して来てます。彼らに鍛えられ、ismを注入され、前半3試合の川村、WINDY、金井、各選手は勝利を収めたわけです。その部分で、伊藤選手の感じたプレッシャーというのは、相当強かったと思います。ましてやウォン選手に関して、強豪という資料は来ていても、組んだ事の無い選手で、プレッシャーはかなり強かったのではと思います。試合前もそんなに動いて良いの、という位、アップをしていましたし、やたらに深呼吸している伊藤選手がいました。大丈夫なのかなと試合前に思っていたのですが、一つ安心したのは、アップの時に、2年前とか1年半前の動きと比べたら、段違いに足が動いていた事です。彼はキックボクシングを習った事によって、手足のバランスをきちんと身に付けて来ました。これは先程申し上げた様に、きちんと襟を正しものを習いに行き、行った以上そこの規則で自分を律しながら、余計なものを出稽古に持っていかないで、1年生から一生懸命やっています。習う者の見本としてきちんと行っていた事、それを神様が、もう一度彼の素早い動き、粘り強い動き、そういうものを与えてくれた様な気がします。ですからアップの時のバランスが素晴らしかったです。キーワードはWINDY選手と同じく、強く打つ、蹴る事です。それをキーワードに彼が一生懸命練習したお陰で、彼の持ち前の、ネオブラッドの時に柳澤龍志を翻弄した速い出、速い引き、変幻自在の動き、そして強い当たり、そういうものをもう一度復活させてくれた気がしました。

試合は終始、伊藤選手が作っていきました。細かい打撃、ハイキックもありました。その部分での展開という物を、凄く印象的にとった判断と、それから2ラウンドにウォン選手のパンチが2、3、伊藤選手の顔面をとらえて、伊藤選手は一瞬だけ腰がふっと落ちます。元々打たれ強い方ではないので、ちょっと動きを止められる所の印象点を取った判断。この辺で判定が2-1に分かれます。そうであっても強豪ウォン選手相手に見事に復活を遂げて行く、道場長として堂々と2005年最後の試合を締めてくれました。本当に意義のある試合だったと思うし、2006年に対して、道場長自らが上手く繋げてくれた試合でした。
ism主催という事で、川村、WINDY、金井、佐藤、近藤、伊藤、全て良い方向にismの風が吹いてくれたというのは凄く印象的な大会でした。個々の強い気持ちが連鎖反応して動いて行く時に、また大きなものが動だします。元々あった流れ、パンクラスという看板をこうやってまた動かすのは凄く大変な事です。無かったものをひょいと出すのは意外に簡単なのですが、こういうものというのは凄く大変です。どの様にかと言ったら、GRABAKAが名を上げた時、例えばGRABAKA主催の試合が6試合あったとして、5勝1分ならばGRABAKA強のイメージがありますが、これは何故かといったらパンクラスという基準があってそういう形になるから、勢いも付き、世界の評価というのは、そうなるのですが、指標であるパンクラスが5勝1分になっても、ん〜、という形になります。これが世の中の評価という部分で、強者に対しては向かい風が吹きます。だからこそismというものは心に強く思いを持たなければ、前進できません。そういう意味ではパンクラスファンの方々からしてみれば、何となく心が温かくなった、もしく来年に期待ができるという意味で、興味の持てる大会だったのではと思います。

最後にこの日、印象的な事として、金井選手の試合の時だったと思いますが、私はサブレフリーでしたが、2ラウンドになり、ニュートラルコーナーのポストのところで試合の状況を見ていました。そうしたら何故か伊藤選手が立っていて、激を飛ばしていましたが、これが先程の様な意味ではismのらしさと言えば良いかもしれません。凄く印象的でした。自分の試合の恐怖感、プレッシャーも相当あったと思いますが、いてもたってもいられない、何かあったら大きく深呼吸するしかない伊藤選手がそこにいました。金井選手がもがき苦しみ、どちらが2ラウンド開始の苦しいところを突き抜けて、残り2分どちらが最後まで前に出るのかというところで、思わずコーナーポストのところに、立って激を飛ばしていました。ルール上あっちに行け!と言いましたけどね(笑)。反則なので立場上、あっちに行け!とは言いますが(笑)、そういう伊藤選手は、何かこの大会を象徴するものだったと思います。大きなものを背負って向かい風に対して歩いて行く事こそ男を磨き、良い男にする特効薬はありません。是非とも来年以降、良い男の軍団に成って貰いたいと思います。この日、試合の無かった渡辺大介、北岡悟、大石幸史、それぞれに頭の中では当然エンジンがかかっています。北岡選手に関しては、よくもまあこれだけ持久力を要する中で自分を高めて行く貪欲さがあるなという位、次の事を考えています。彼は考えているが故に直ぐに実行する事で実力を上げて来ていますから、2006年今回出場しなかった3人も何かしでかす可能性がありますし、誰が道場長に成ったとしても良い、そんなismに成って貰いたいというのが2005年のスパイラルツアー最終戦を終了した感想です。