: | tourarchive | : | 2006 |
この試合、井上選手の印象が少し違いました。元気が無いというのと、らしさがありませんでした。どこか怪我をしているのではないかなと思うくらい、守りに回っていました。ですから動きの鋭さ、力強さが、見受けられませんでした。その中で彼らしかったところは、2ラウンドだったと思いますが、終了間近のロープ際で、北岡選手をがぶった後に、リフトして投げようとした瞬間、その位でした。それが井上選手側に要因がなかったならば、北岡選手がそれだけ高いレベルで井上選手を追い詰めて行ったという事だと思います。 北岡選手自体は、序盤1、2ラウンドと出入りの大変良い立ち上がりで、きちんと脚で動きながら、相手を追いかけていました。2ラウンド中盤から相手を追い詰めようとし過ぎて、井上選手の正面に立ちだしました。そこから試合の流れが変わり出しましたが、あれだけ攻め込み、どんどん仕掛けていきましたから、後半のスタミナ切れも仕方ないかなと思います。 序盤は北岡選手が細かいパンチを放ちながら、何とか懐に入ろうとし、井上選手は何とかアウトボクシングで凌ぎながら、入って来る北岡選手にカウンター膝を合わせる等の返し技で突破口を開こうという両者の展開でした。その中で北岡選手がグラウンドからチョークに行ったのが見所ではありました。井上選手の対処は早く、遅れていれば、決着に到る可能性はありました。 全体的には拮抗した試合でした。 タイトルマッチとして、あまり好ましくない部分ですが、2ラウンドにイエローカードが1度出ました。井上選手のリードが伸び切った瞬間、親指が北岡選手の目に入り、サミングという判定になりましたが、もちろん故意という事ではなく、手の形状から、パンチがきちんと伸びた状態ですから、親指が当たればサミング、拳の部分が当たればそのままパンチ、という大変ぎりぎりの線なのですが、明らかに親指が入ってしまいました。見た目ダメージは軽く見えますが、手が伸び切り、パンチとして良い形で入っているので、目に親指の1点でパンチを受けた状態です。 ドクターチェックをした時点で、田中ドクターから角膜に傷が付いている可能性があり、眼底が痙攣している事から視力の回復はどうなのか様子を見て、出来たらタイトルマッチなので、続行させてあげたいという事でした。視力に関して、指を近くで1本、2本という形では見えますが、何メートルも離れ、速い動きに対応できるかといえば、動体視力からすると感は鈍ります。片目をつむり、精密な仕事をしようとすれば、遠近感が狂う事も含めると目のダメージは大きいです。皆さんはぴんとこないと思いますが、サミングは視力がどうかという以外に、眼底が脳に直結している器官で、目の破損は脳自体に損傷を受けると考えても良い位です。ですから目に強い衝撃があるとショック状態になります。ですから時間の経過と共に気持ちが悪くなったり、脂汗が出て、動悸が激しくなり呼吸がみだれたり、虚脱感があったり等のダメージもあり、著しくスタミナを奪いますし、集中力を失くす事もあります。ドクターから試合を止めるのも辞さないという進言もあり、井上、北岡両選手、両セコンドに伝え、故意ではないのは明確でしたが、ドクター診断でダメージが大きいという事で、レフェリー裁定でイエローカードは出さざるを負えませんでした。 それを差し引いても、3ラウンド目で井上選手が粘ってくれたので、最終的にはお互いの決め手を許さなかった試合でした。 事前に対処する速度感と、なおかつその中で強引にも決めて行く大胆さという、そういうものの出入りの中でのタイトルマッチだったとは思います。井上選手は暫定という言葉が今回はとれなかったですから、白黒付ける為に更に再び試合をしてもらいたいなと思いました。 |