メインイベント 第2代ヘビー級王者決定トーナメントBブロック第2試合 5分2ラウンド
ランキング2位
野地竜太
(パンクラスGARO)
vs 杉浦貴×
(プロレスリング・ノア)
1R 3:25、KO/スタンドからグラウンドへの顔面への踏みつけ
■ 野地竜太(98.0kg) セコンド:矢野卓見
■ 杉浦貴(93.2kg) セコンド:高橋義生
レフェリー:廣戸聡一

杉浦選手は他のリングで総合を2試合経験していて、圧力のあるタックルを武器に、どういう風に野地選手と闘うのか。その野地選手は前回、一発大きなのを貰って、自分の試合を組み立てる前に敗れてしまった部分があったので、今回は巻き返しをしたいし、しかも試合前にこれで負けたらという様なプレッシャーが嫌でもかかる状況になってしまいましたので、野地選手としては堅く行かなくてはいけないのですが、逆にそう行こうとすると、杉浦選手の圧力にそのまま押し切られてしまうのではないかという感じでした。手堅く確実に行かなくてはいけないという雰囲気の中で、どれ位思い切り行けるかが最大のポイントではないかと思いました。
それにしてもさすが極真で看板を背負って闘って来ただけの男で、ここ一番での思い切りの良さはたいへん印象に残りました。
序盤、杉浦選手の素晴らしいタックルでコーナーに押し込まれて、そこで細かいパンチを貰い出したところで、過去の野地選手ならば体を固め守りにはいるところを、今回は対処が迅速でした。何をされても先手の早い対応で、とにかく相手より良いポジションを取ろうと、先に動いていましたが、それは野地選手がようやく指導者の方々との方向性が明確になってきた表れではないかと思います。
新しいチームやスタイルを作ったりすると、形になるのには時間がかかります。心の部分で過去の自分をいつまでも捨てられないで、新しい何かを加えようとする人はなかなか前進出来ません。
過去を捨て、その部分に新しい何かを構築し、新しい体制で試合をした野地選手は、この勢いでタイガー選手と真っ向からぶつかるのは、大変見所のある試合になると思います。
日本のリングで、これだけ日本人として、これだけ野太い試合を出来る人は少ないですから、Bブロック第2戦のタイガー、野地戦は相当楽しみにして良いと思います。それが例え10秒で終る試合だったとしても、お客様の期待を裏切らない、口をあんぐり開ける結果になるのではと今から大変楽しみにしています。本当に野地選手は良い試合をしました。

追記
ここのところ総合格闘技のイベントでの「完全決着」という事に関して、気になる事があります。お客様としては、その方がはっきりしているし、人が倒れる迫力を味わうのもチケット代の一部なのかもしれません。
ですが、私は人間の体を健康にする事を生業にしているからかもしれませんが、特に最近、最後の一手が決まる前に危険な場合は、止めるようにしています。先だっての大阪の前田選手の試合もそうですが、あそこで踏ん張ったところで、次に相手が波状攻撃をしてくるのは明確です。その危険を予測する力は、パンクラスの歴史の中で、意識を失い痙攣している選手が担架で運ばれのを何度も見て来た、その経験値から来ています。当然ながら、それで続けていくと、最終的には大怪我に繋がりますし、私たちはレフェリングを通じて、最後の一手をやらせても、やらせなくても結果は大して変わらないという事が分かりました。

ですからこれで決まるという時に、それ以上大きなダメージを与えて試合に句読点を打たせるというのであれば、私たちとしては一歩手前、見た目の決着の直前で試合を止めるわけですから、プレッシャーではありますが、レフェリーの権限で、この試合はもうこれで終わりですという責任を意識して、試合を進めています。選手としたら、あそこで止められなければ、まだ行けたかもしれないという思いがあるかも知れません。選手の感情面では、完全決着にした方が男らしく、いさぎが良いと思うかもしれませんが、それは心の中だけに留めてもらいたいです。そして、その悔しさを、大きな怪我をしなかったのですから、練習を一生懸命していただき、一ヵ月後、二ヵ月後にもう一度試合を組んでもらって、それで結果を出してくれた方が、最終的には選手にも満足して貰える様な気がします。

「完全決着」で、男らしさを感じ、華々しく散っても、そこから生じた怪我で、半年、一年、棒に振り、それ以上の期間を経て復帰といったら、健康体ならその間に最大5試合程の経験値が積めます。選手生命というのは長い様で、短かく、更にその後の人生がたくさんある訳ですから、なるべくなら大怪我をしない様に試合を運んで行きたいという思いが、私達レフェリー陣にはあります。ですから例えば今大会の野地、杉浦戦、金原、タイガー戦等がそうです。金原選手のダウンかなというぎりぎりのところで、和田レフェリー、サブの私達との張り詰めたアイコンタクトで続行か否かの緊張の連続です。志田、ペイジ戦、金井、山田戦、みんなそうです。私達の絞め技、関節技、打撃等への一瞬の判断で選手生命が長くも短くもなります。そういう意味で判断基準が、観戦していただいていて、たまには止めるのが早いのではないかと思われる事があるかもしれません。ですが私達は全ての選手の、どこのリング上であろうと、次の試合にも期待をしています。パンクラスのリングで怪我をしようが、何をしようが関係ないという気持ちでレフェリングをしているなら、それは気楽かもしれませんが、やはり大きな怪我をして欲しくはないという事もあり、レフェリー陣も新たな技術体系を構築しようと頑張っていますので、私達がアイコンタクトを取って試合を進めているのを、たまには見ていただいても面白いかなと思います。