メインイベント 初代フェザー級王者決定トーナメント 第二試合 5分3ラウンド
2003年度ネオブラッド・トーナメントフェザー級優勝
前田吉朗
(パンクラス稲垣組)
vs 2004年度ネオブラッド・トーナメントフェザー級優勝
山本篤×
(KILLER BEE)
2R 4:36、KO/スタンドのヒザ蹴りによる
■ 前田吉朗(63.7kg) セコンド:稲垣克臣、武重賢司
■ 山本篤(62.0kg) セコンド:小路伸亮
レフェリー:廣戸聡一

今大会を一言で表すと、覚悟した男達、の試合でした。
その象徴が、入場してリングインする時の前田選手の顔でした。頬もこけ気味で、作った顔がなかったところに、並々ならぬ決意を感じました。対する山本選手もネオブラッドで優勝して以来、試合は一進一退を繰り返しています。ですが質は高いです。試合後、山本選手の口から、やはり俺はこんなものか、という様な意味合いの発言がありましたが、声を大にし、それは違うと言いたいです。試合の随所で見せた能力、試合の組み立て。最後はKO負けでしたが、決して前田選手も、自身のペースで終始試合を進めた訳ではありません。そういう意味ではどちらにころんでも良いし、このトーナメント出場四選手の誰が勝っても順当で、おかしくない、メンバーです。
ですから一本取られたから弱いという事ではありません。四選手共、一本取りに行く為には、一本取られる可能性があるという事で、皆覚悟して試合をしています。
山本選手も前田選手に打ち勝つ為、懐に入れないから、そこで何とか取りに行こうと思ったところの隙間をつかれたエンディングなので、俺はこんなものか、といった問題ではあいません。ですから山本選手は気持ちを切り替え、志田選手同様、最初の挑戦者というポジションに挑んでもらいたいです。 試合は、序盤山本選手がトリッキーな動きの中で、変則的なパンチからタックルに入りたいとい展開で、対する前田選手は構えを変えました、これは多分、タックル対策だと思います。

山本選手に関して、少々ここはどうかなと思うところは、スタンスが広くなっていた事です。確かにスタンスが広いほうが威力を発揮するタイプの選手ですが、広過ぎる様な気がします。今回の様なスタンスであったら打つとき、タックルに入られた時、一旦どちらかの足を詰めないと、初動で動けません。その詰める時に、膝が伸びてしまっているので、頭が必ず動きます。そこで山本選手らしい動きが損なわれたのではないかなと思います。それにして、懐も深く、守りも強かったです。その中で、前田選手が功をそうしたのは、山本選手がスタンスを広くしている事から、左足を伸ばして立っているので、その部分の膝上にインローをクロスで上手く入れ、しかも前田選手独特のインパクトの強い、速いキックでした。山本選手はそのクロスが入って来た事で、重心が後ろに下がり、それに因り、山本選手の速い一歩が消された一つの要因だった様な気がします。そして前田選手はタックルを必要以上に警戒しないで、自分のペースで闘えて行くという1ラウンド後半に繋がっていった様な気がします。山本選手は何発か打つ前田選手に対して、入る出足、打ち終わった引き際等で、良いカウンターを打っていましたので、序盤としては申し分なく互角の試合だったと思います。
2ラウンド目も、山本選手も自分から仕掛けて行く、前田選手もそれを追いかけて行くという、入れ替わり立ち代りの中から、勝負を決めたのは、残り30秒を切った瞬間です。山本選手が、ちょっとうかつに頭を後ろに引いた時に、前田選手のストレートがきれいに決まり、山本選手はもう一歩真っ直ぐ後ろに下がってしまいます。その時に前田選手は勝機を逃さず、一気に小刻みにパンチを打ちながら、加速をしての飛び膝蹴りでした。山本選手は小刻みに打たれ、コーナーを背にしながら、からだを立て直して、前へ出て行く時にカウンターで入ってしまい、それが威力倍増となりました。直後、ロープの外に体が弾け出てしまいましたので、当たった瞬間で直ぐに試合を止めました。意識がしばらく飛んでいましたが、それ位威力のある、飛び膝蹴りでした。

このフェザー級、何が面白いか、四選手誰が勝ってもおかしくない、かというと、ここぞという時に皆一本取りに行く気持ちでいます。これが質の高さと、手に汗握る試合のイメージをしっかり作ってくれています。
大阪でDJ.taiki選手は、前田選手に殴り勝ちしています。これも第1ラウンドは前田選手はほぼ自分のペースで闘っていて、それを凌ぎ切った後の第2ラウンドのDJ.taiki選手の反撃でした。
という事で、前哨戦からみても、どちらにころぶかは本当に分かりません。ですから決勝戦までに、いかに自分の必殺技を、パターンとして崩さないでいられるかがポイントです。一つ言うならば、DJ.taiki選手はここのところ安定していて、守りも堅く、自分の形が出来ていて、不安材料が少ないと思います。対して前田選手は、今回少し滑る場面を良く見ましたが、映像で見られる方は見て下さい、少し足を滑らすシーンが良く出てきます。因って、彼の小さく体を振りぬいて打ち込むという右ストレートが消えています。滑ってしまっているので、頭が突っ込み、体が回らず、かなり短い右ストレートに成っています。これをカウンターで取られたらKO率はかなり高いものとなりますから、直してもらった方が良いと思いますが、山本選手のプレッシャーもあったと思いますが、原因は立ち方が爪先立っていることです。前田選手はべたあしで何ぼの選手です。爪先立ちで頭を振って軽快なフットワークタイプの選手ではありません。それ故に自身の顔や額の汗を、足裏に塗り、キャンバスが滑り易いからと、濡らしてグリップをかけています。実は試合中にそんな事をする自体、凄くもったいない事、危ない事です。乾燥して滑りやすくなっている訳ではなく、立ち方がまずいから滑っているんです。初動のかけかたが間違っているからそうなるので、山本選手、志田選手は滑っていません。いつも滑っていない自分がそうなっているという事は、自分に合わない立ち方をしていますよという事を考え仕切りをしないと、DJ.taiki選手にまたいかれますよ、という事です。その様な意味では、少し前田選手が後手に回っている感じがしました。

いずれにしろ、この日の大会は、自分が今迄にない強い相手にぶつかる事により、今迄のままでは駄目だと確信して、自分でアジャスト出来て、ある選手は強く深く当たって、自分で真ん中で闘おうと強く心に思った者もいるし、強く組まれない為に、軽く踏み込んでショートレンジで強く打とうと思った者もいるかもしれないし、懐に何とか入り、自分の展開にしようと思った者もいるだろうし、強い選手とは一体どんなものなのか体験してやると、自分から踏み込んで行く者もいるだろうし、自分らしさを絶対に守る、と思った者もいるだろうし、何として一本取って勝ってやるんだと、勝ち続けた後の負け続けが始まる前に、その雪崩を早めに止める為に何とかしなくてはいけないと、顔つきを変えリングインする者もいる、そういう意味ではより強く覚悟をした者が結果を残した試合というところでは、凄く印象深い大会だった様な気がします。

最後に一つ、プロ、アマチュア、全ての競技者に大変注意してもらいたい事があります。
コンタクトレンズをされている方は、ハードは本当に付けない方が良いです。今回、リング上に、ひしゃげて千切れたハードコンタクトが落ちていて、ひろった後に私達レフリーで見たのですが、それはそれは危険な状態で千切れていました。あんなのが眼球にあったら失明してしまいますので、そういう意味で試合中のハードコンタクトは本当に危ないです。レフェリーチェックでは中々分からないのですし、怪我をするのは自分自身なので、いくらかのお金で片が付くのであれば、一生を左右する眼球というものと比べるのであれば、試合の時は外すか、ソフトコンタクトレンズに変えて貰いたいです。ソフトはひしゃげない代わりに、外に飛んで行くだけの事なので、使い捨てであれば、それ程の金額にはならないし、目の外に飛ぶだけで終るので良いのですが、ハードは危ないです。その千切れたレンズを写真で見せて上げたい位で、ぞっとする位、変な形で千切れていました。ある選手が使っていたのですが、あの尖ったプラスティックが眼に刺さったらどうするんだろうと思う位でした。プロもアマチュアの方も、そういう部分は本当に気を付けて練習をして下さい。