それにしても選手も増えてきましたね。
ism対GRABAKAって図式を皆さんどうしても描きたがるんですけど、実はもう、そういうことではなくてイデオロギーの闘争ですね。ismの中でも郷野の気持ちがよく分かるっていうのもいるだろうし、逆にGRABAKAだけど郷野とは反対の意見を持っているのもいるかもしれない。もうism対GRABAKAではないんですよ。それがよく現われてたのが、郷野が試合が終わった後に倒れている山宮のところに行って握手してるんですよね。もうism対GRABAKAは終わったんですよ。今度はイデオロギー対決してるんですよ。でも面白いって思うのは、鈴木の言いたい事っていうのを次に表現できるのは郷野かも知れない。鈴木がプロとして見せたいものをお客さんに見せれるのは郷野かも知れないと思わせたことですよね。

確かに郷野選手も試合後に言ってましたね。「これからは勝つだけじゃいけない。魅せながら勝たないといけない。」って。
あっ、そんな事言ってましたか? 郷野はあの鈴木vsライガー戦は否定しましたけど、鈴木を否定してないと思うんですよね。

それも郷野選手は言ってましたね。「あの試合をやっちゃいけないとは思わない。でもメインでやるべき試合じゃない」って。
それを危機感って言っていいのか分かんないけど、船木がテレビの解説で喋ってるんですよ。「パンクラスが今までやってきたものを、あの試合で否定されたかも知れない。」って。競技としてのパンクラスをあの試合で否定されたかも知れないって言ってるんですよね。だから船木に限らず選手はみんな分かってると思うんですよ。あの試合が及ぼした影響っていうのを。でもそこで考えないといけないのは、あの試合をお客さんは支持しましたよね。会場が盛り上がりましたよね。これってプロの試合、プロの興行として凄く大切なことですよね。だからある意味郷野は凄く悔しいはずなんですよ。アレを上回るものをまだ持ってない訳ですから。それを手に入れないといけないっていうプレッシャーは物凄いと思いますね。これは郷野に限ったことではなくて、みんな魅せていかないといけない思うんですよ。

去年11月のパンクラスの興行はパンクラスのカタログ的な興行でしたね。鈴木選手の試合があって、今のパンクラスを表す美濃輪vs佐々木戦があり、元修斗の和田選手の試合もあって、世界の強豪としてアルメイダ選手が上がってきて、P's LABからの選手も上がってました。これは意図して決めたものなんですか?
いや、もうそうなってしまうんですよ。意図的にというより、カードを組む時点からそういう風になってくるんですよ。競技としてのパンクラスを追求するカードがあり、お客さんを満足させるプロフェッショナル、ある種のエンターテインメント的なカードがある。そうでないとパンクラスはしぼんでいきますよ。見ていて楽しくないから。競技としての底辺を拡大させるためにも両方が必要なんですよ。アマチュアの競技にしてもそうですよね。例えば近代柔道にしても僕らがやっていた頃は寝技の膠着が多くて見ている方があんまり楽しくなかった。これがオリンピック競技になってアマチュア競技なのに観客論を取り入れた訳ですよ。やっぱり立ち技が多くないとつまらない訳です。だから立って闘うこと、投げ技が多くなってきた訳じゃないですか? それで近代柔道は発展してきた訳です。アマレスだってそうですよ、ルールはドンドン変わってきてる訳じゃないですか? アグレッシブにやらないとコーションとられる訳ですよね。その間隔も短くなってきてる。あれってやっぱり観客論ですよ(笑)。だから面白い競技になって、底辺も広がって、競技としての格闘技が広がってくる訳ですよ。両立するはずですし、両立させないといけないんです。

テクニックとエンターテインメントとが両立しないとプロスポーツとしての枠は広がっていかないという事ですね。
ボクシングもそうですよね。アマチュアがあって底辺が広い訳ですよ。で、プロではモハメド・アリがいて人気が凄い出て、でもその後にラリー・ホームズが出てきてアリ以上の凄い戦績を残してる訳です。でもラリー・ホームズは人気なくなっちゃってホームズが世界チャンピオンになってからボクシングが衰退し始めるんですよ。なぜか? 判定の試合ばっかりだったからです。強いけど面白くない。で、こういうことを言っていると必ず誤解されるんですが、じゃあ勝負論は必要ないのかと。そんなことはありません。勝負論は絶対必要なんです。その上での観客論だと。例えばですね、僕は高山選手って凄い選手だなって思う訳です。高山選手ってプライドに出てましたけど、何勝か上げてたと思ってたんですよ。でも4連敗で全敗なんですね。でも高山選手の価値はドンドン上がって「高山凄い!」ってなってる訳です。大晦日のトリで紅白と競ってるんだから(笑)。だから認めないといけないんです。プロとして。じゃあ理想は何かって言うと、プライドで全勝してればいい訳ですよ。勝負論はもちろんあって、それは大事。その上でプロとしてのお客さんを満足させる部分も大事。プロとしてお金を貰ってる訳ですから。それで、この二つを兼ね備えている選手っていうのが、スター、ヒーローって事ですね。

魅せることも、もっと考えないといけないという事ですね。
いや、でもね、これは難しいんです。考えすぎると魅せるだけで終わっちゃうから物凄く難しい。だからボクシングの辰吉選手っていうのはその能力が優れていた。凄く難しいことなんだけど、それが出来る選手っていうのが人気も出て、お客さんも呼べて、なおかつその選手の求心力でその競技が発展していくっていうことがあると思います。

パンクラスの選手は今以上に大変になってきますよね。
この間記者の方から聞いた話で、竹内選手が言ってたらしいんです。「自分は勝たないといけない。勝つことはできるんだけども、パンクラスのリングではただ勝つだけじゃ駄目なんですね。」って。両方が大事だっていうことを体感してくれてるんだなぁって、嬉しく思っちゃいますね。

それでは、パンクラスの選手はみんなそこに気付いている選手がいるっておっしゃってましたけど、そのなかでも尾崎社長から見て「この選手は!」っていう方はいますか?
もがいて頑張ってる選手はたくさんいますよね。渋谷にしても山宮にしても負けても頑張ってるし。でも目に見えてきているのは国奧かも知れないですね。この間は負けてしまったけど、変わったのは国奥かも知れない。

負けたことでですか?
いやいや、負けたことでではないですよ。国奥って判定が多かったでしょ? 勝ちに拘ってた部分が多かったですよね。もちろん勝ちには拘らないといけないんだけど、昨年9月の横浜文体を見ても、12月のタイトルマッチを見ても、僕から見たら「あっ!ワンステップ上がったかな」って思いましたね。勝ちにいってることをお客さんに見せてきてるなって。プロの顔っぽくなってきたかなって。
これも最初に戻っちゃいますけど、なぜパンクラスがプロレスを名乗っているかと言うと、プロとしての部分をプロレスから得たからなんです。鈴木を見ても、船木を見ても、言いたくないけどシャムロック見ても、みんなプロの顔を持ってる訳ですよ。それで今までの国奥からはそのプロの顔っていうのが見えにくかったんだけど、今の国奥にはプロの顔が見えてきましたね。もっと言うと、今までの国奥はこの中(四角い灰皿のなかを指しながら)、リングの中で闘ってきた訳です。でも今の国奥は(四角い灰皿の外側を指しながら)会場の中で闘っている訳ですよ。要は会場の中のお客さんの枠を隅々まで広げて闘っていけるか、お客さんを巻き込んで闘っていけるかですよね。リングの中だけで闘ってもその中にはお客さんはいない訳です。その中だけで闘っていくならそこまでの選手です。アマチュアならいいですよ。でもプロですから。リングの中だけで闘って判定でどうのって言ってるだけなら、アマチュアだと。郷野はですね、良くも悪くも巻き込んでいっちゃいますよね(笑)。お客さんはシーンとしちゃったけど(笑)。でも、郷野はあそこでプロとして大切なものを提示して、まわりを巻き込んで、みんな考えて下さいって問題提起した訳ですよ。それで郷野への取材が増えて、その郷野に対する僕の取材も増えて(笑)。巻き込んでますよね。
ネット上でも反響大きかったですからね(笑)。