第6試合 スーパーヘビー級戦/5分3R
○ロン・ウォーターマン(1R 1分02秒、ギブアップ/ネックロック)石井淳×

この試合もまた、私のこの日の注目の試合でした。印象として楽しみにしていた試合でした。スーパーヘビー級の先には無差別級があります。石井選手はクオリティーも高いし、人気もあり、キャラクターも立っていて、闘い振りも良くも悪くも彼らしさが表に伝わってきます。それが変に演出してないところが、大変好感を持てて良かったです。それに対して、来日の度に水準の高い、強い印象の試合をしてくれるウォーターマン選手。なのでこのカードは凄く楽しみにしていました。試合の方は、ウォーターマン選手がテークダウンを奪いサイドに回って、細かい攻撃の中から自分のスタイルを作った後にアームロックからネックロックへと変形していく、実の安定した変化に富んだ闘いでした。1分間でウォーターマン選手は何種類の攻撃を仕掛けたのか?という試合だったと私は思っています。勝負の事よりも、これは私だけの感覚なのかも知れませんが、ウォーターマン選手の闘っている姿に、旗揚げ3〜4年目ぐらいのパンクラシストの闘い方がオーバーラップして、私は大変面白かったです。何故かと言うと、もちろん強い弱いのイメージもあったと思いますが、やはり旗揚げ4年前後というのは、ある意味、第1の過渡期だったと私は思います。その時に、「パンクラスのハイブリッドレスリングの正体はこんなものですよ」という片鱗が、世の中に出始めたのが3〜4年ぐらいだったと思います。丁度今回ウォーターマン選手が、打撃でいくのかなと思ったところからいきなりテークダウンを取り、そして1分間で色々な攻撃を仕掛けていったように、自由な闘い方をしたというところでは、見た目の体つき、キャラクターというものからすると、180度裏切る様な形で流水が流れるがごとく、変化に富んだ形で、すいすいと試合をしましたというのが印象です。それはまさしく秒殺という言葉を命名してもらったパンクラスの、秒殺劇というのは、その前の18秒で終ったハー選手の試合がパンクラスの秒殺ではありません。実は、この1分02秒で終ったウォーターマン選手の試合、約1分間に凝縮した技が展開されて1本取る、これが私はハイブリッドレスリング・パンクラス、パンクラスismのismというものは、ここに隠れている様な気がしました。

私はそれを見て、何か懐かしい気持ちでした。ある意味、バス・ルッテンの闘い方に見えたり、船木 誠勝の闘い方に見えたり、意外なところから急に逆転勝ちする冨宅の闘い方に見えたり、技から技に繋いでいった鈴木みのるの闘い方に見えたり、思い切りの良い技で一気に展開して行くジェイソン・デルーシアの試合であったり、ウェイン・シャムロックもしかり。そういう意味で、今回のロン・ウォーターマン選手の試合にはそれがあったような気が私はしました。以前他のところでも話をした中で、私はアドベンチャーという言葉が凄く好きです。一般的にアドベンチャーというと、当然何かに挑戦したり、命をかけたり、危険な事を強いていくというのが、アドベンチャーの一般的な意味ではあります。もう1つの意味は、「敢えて〜する」という意味があるそうです。実は、私はそれが今回の試合の様な気がします。我々がハイブリッドレスラーとして求めていくものは、そういうような部分があると思います。それに挑戦しているような気がします。しかし、敢えて「昔のパンクラスマットを見た」という様に言ったのは、現在は、こういう時にはこうやって闘わなければならないといった、闘いのセオリーとかというものに多くの選手が自由さを失っているからです。だからこそ、何をしてくるかわからない中西選手や、どんなところからでも思い切りの良い技を仕掛けていく和田選手であるとか、不器用であっても柔術という枠から打撃というものに何とか自分のイメージを変えようとしている北岡選手であったりという、この試合までの勝ち残った選手の良い所というのが、そこにあると思います。敢えてリスクを背負ってでも、自分から何かに挑戦していくんだという、それが敢えて何かを仕掛けていくというのであって、初めに罠を張って、ず〜っと待って、そこに入って来た時に勝つという、ある意味狡猾な闘い方かもしれませんが、でもそれは、私は何かに挑戦している者の姿では無い様な気がします。命の懸かった試合であるならば、命懸けの試合であるならば、要するに殺人の延長線上の技であるならば、そういう狡猾な試合の方が安全なのだと思います。でもパンクラスは私達レフリーがいて、そういう所に陥れないで闘いなさいという、お客様に観せる試合だとすれば、より何をしたいのか自己表現をしていく事が、実は1つの選手の重要なファクターの様な気がします。それを私はロン・ウォーターマン選手から学んでもらいたいなと思います。そんな事で、私はこの試合を本当に懐かしい気持ちで楽しませて貰いました。ロン・ウォーターマンありがとう。

>>> N E X T