第2試合 ウェルター級戦/5分2R
○伊藤崇文(1R 3分46秒、レフェリーストップ/アームロック)リンソン・シマンジュンタク×

まず、インドネシアから初参戦のシマンジュンタク選手ですが、インドネシアでは総合のチャンピオンという肩書きを持っています。どうしてもファンの皆さんは、選手の所属チームの国、今だとブラジル人、アメリカ人、ロシア人というと、何か凄いんじゃないかと思い、逆にアラビア人、タイ人とか、そういうイメージだと、総合は弱いとか言うんですが、私はこれも凄くナンセンスだと思います。やはり、どこの国にも天才がいたり、誰かがいたりします。格闘技歴が浅くとも勝ってしまう選手がいます。その代表が稲垣組にいるではないですか。そういう意味では、まず選手を見る時、こういうカードを見る時は、本当に頭を空にして観た方が良いと思います。リングインの時のたたずまい等を見逃してしまうと、大変もったいないと思います。

伊藤選手としては、先だっての船木君のism問題の発言が1つ頭にあっての、プライドを賭けてのリングインだったと思います。語り種にはなりますが、試合会場から船木君と私で帰る時に、駐車場から車を出した時に、いきなり車の前に飛び出して来て、それでパンクラスに入れてくれと土下座をした男がいました。その時に私は居合わせた人間ですが、それが誰あろう伊藤選手でした。その男が正々堂々と、発言に対して、きちんとコメントを出すというのは、私は凄く良い事だと思います。いわゆるそれがismです。昔から武術の世界でも何でも言われているのですが、要するに師匠の言う事をそのまま聞くというのが門弟の務めではありません。多くの流派が分裂した時に、実はそれは仲違い、袂を別つという事ではありません。自分の師匠の教えを守ると、ある時点から、どうしても師匠を越えていかなければなりません。もしくは師匠の言っている事が全てでは無い、という事が解ってきたりします。その教えを守る為には、師匠と袂を別つ事、相対しなければいけない事、それが現実では絶対に起こる事です。そういう精神的な部分も含めて私はismだと思っているので、こういう問題発言と、現状に関して黙っていたら“言われてしょうがないですね”という様な選手はismでは無いという事です。ほらみろ、という事です。しかし、自分達はちゃんとやっているんだ、何を言っているんだと。船木君が先輩とは言え、一種門外漢です。パンクラスを創ったという功績を認めながらも、今、闘いの場にいるのは我々であって、その精神を私達は貫いて持っていますよという事を、正々堂々と言う事が教えを守っているという事です。ですからこの問題については、別に何の心配もありません。当たり前の世界です。逆に言うと、こういうものでハラハラしているという事は、ちょっと平和ボケしているんではないですか?というくらいのものだと思います。それくらいの厳しさの中で、伊藤君がリングインして何をするかという事です。

試合としては3分46秒で伊藤選手が勝ちました。この時点で私はサブレフリーも何もしていません。審判部長としてただ見てましたが、私としては、開始早々のシマンジュンタク選手のパンチ、大変伸びのある良いパンチでした。それが伊藤選手の顔面をとらえて、私はそれでKOかな、という判定でした。1R3分46秒アームロックの良い形で勝っていますが、私がメインレフリーだったら、もしかしたら試合を止めていたかも知れません。その時は伊藤 崇文、初参戦選手に1R、多分10秒とかそれぐらいだと思いますが、完璧な秒殺劇という形になったと思います。伊藤選手は言う事は言う。但し、言った事を現実にするという事は大変難しい事です。伊藤選手の中にも油断があったのではないか、という事を私は言いたいです。それだけ言うのであれば、どんな人間にも先に自分から攻撃をしなければいけません。様子を見ながらなんていう形の中で、一番良いストレートを単発であんなに打たれる様だったら、ウェルター級でベルトを巻くなんておこがましいです。第1試合の、前に前に出ていく若い2人の闘い方を見ていたら、「横綱相撲しようたって駄目だよ」という事を言いたいです。勝って、良い形で試合をしている伊藤選手だから言います。そしてリーダーたらんという自負も出ているから私は言います。打撃への対処が甘かったです。それを除けば、色んな形で翻弄しての良い闘い方だったし、1年を締めくくるのに良い勝ち方でした。でも私は、伊藤選手、「あなたはKO負けかも知れませんよ」と。「尻餅尽いて誤魔化しているけど、私は誤魔化されませんよ」というのが、私の試合の感想でした。

>>> N E X T