第3試合 無差別級戦/5分2R
○ハー・スン・ジン(1R 1分22秒、TKO)アレックス・ロバーツ×

ハー・スン・ジン選手は良かれ悪しかれ、めちゃくちゃ派手な試合をするという感じの選手です。対して、英語で試合前に注意事項を伝えると、全部“押忍"という返答をする(笑)アレックス・ロバーツ選手。良い選手でした。試合では立ち上がり、ファーストコンタクトで、早速ハー・スン・ジン選手の良い所が出ました。自分からドーンと仕掛けて、しかも左フックが的確でした。そしてファーストコンタクトのパンチが十分効いてしまって、崩れたところに間髪入れずの膝蹴りで、この時にロバーツ選手の鼻が折れてしまいました。これで決まりかと思ったのですが、ロバーツ選手は何とかそれを踏みとどまって次の展開にと思っていたのではと思います。この辺は長身を生かして何とか凌ぎ切っていましたが、この後に問題の場面として、上を取られたハー選手がロープ際の攻防の中で、頭突きを仕掛けてしまいます。ですがロバーツ選手のダメージが少ない事とハー選手も大きなダメージを与えていなかったという事でイエローカードで試合は1回止まります。再スタートをして、結果ロバーツ選手のTKO負けという事になりました。ここで問題は、無差別級の選手になると1発1発が凄いので、大変危険な香りがしてきます。その中でハー選手の仕掛けの早い攻撃というのは、1つ言うとパンクラスの選手には無いものかもしれないなと思いました。一種アマチュアの様な感じです。試合後、直接ハー選手が私のところに謝りに来ました。頭突きをして、イエローカードが出てしまった事への謝罪でした。その時彼は「大変怖かったんです」と。(対戦相手は)自分よりも大きな人間で外国人選手ということで、ハー選手自身が大変怖かった、そしてつい頭突きをしてしまってすいません、という言葉が出てきました。

私は審判部長でもありますから、ルール上厳重注意という事で、またそこで注意をしました。ですが個人的に言うと良かれ悪しかれハートが前へ出ている人というのは伸びます。怖いと思うことも悪い事ではなく、良い事です。実は恐怖心が精神的圧力を撥ね退けるという事がたくさんあります。例えば目の前に1mの溝があり、その深さが何千メートルだとします。そのたった1mを飛んでみなさい、と言われたら多くの人は怖がると思います。溝の手前ぎりぎりの所に立ってごらんと言われても出来ないかもしれません。それは、「もしも落ちたら死ぬ」という恐怖心から淵に立つ事も怖くなるし、ましてや飛び越えるのも物凄く怖くなると思います。もしかしたらその恐怖心によって1mを飛び損じる事もあります。それは自分の手足が硬直したり、恐怖の為にコントロール出来なくなる事により飛び損じるという感覚が凄く高くなると言われています。そしてそれを感じるから余計に恐怖におののくという悪循環です。そんな人を飛び越えさせる方法は簡単です。何だと思いますか?これは言葉ではありません。例えばライオンを放ってやります。そうすると、もしかしたら落ちて死ぬかもしれないという、「何々かも」よりも、確実にこのライオンが来たら食われるという現実の恐怖が自分に迫った時、人は小さな恐怖より、大きな恐怖を選んでそれから脱出しようとすれば、これは簡単に飛べます。ですから恐怖、プレッシャーはマイナスに作用しない場合もあります。ですが平和呆けしている選手はプレッシャーはプレッシャーだと思い続けます。ハングリーな男はプレッシャーをプラスに出来るという、実に良い例として見て頂きたいと思います。頭の中だけでとやかく色々考えてメンタルがどうだとか、こうだとか言ってなくても良いんです。自分の国を出て異国に来て、裸一貫で言葉も解らずリングに上がって一生懸命闘っている人というのは、それだけ色々なものを捨てて、丸裸、無防備です。その中で跳ね返すだけの精神力はプレッシャーによって生まれています。それがハングリー精神です。貧乏して見すぼらしい格好をしながら何かをし続けるとか、食うものを食わないとか、そういう事がハングリー精神ではありません。自分をそういう境地に置いて精神的圧力に打克っていく所に美学があり、飼いならされているどこぞの若い選手は、それを多く学ぶべきです。反則をして良いという事ではありません。でもその影にはそういう事もあるんだよ、という事です。この一戦は良い勉強になると思います。ビデオでご覧になって下さい。

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