第3試合 ウェルター級戦 5分2ラウンド
○伊藤崇文(2R 5分00秒、判定/3-0)小沢稔×

このウェルター級の第3試合、私は密かに楽しみにしていた試合でした。何故かと言うと、一昨年、昨年と、ismの勢い、若しくはパンクラスの勢いというものの中で、それにケガのために上手く乗り切れなかった伊藤選手だからです。年齢もベテランの域に入って来ましたので、そういう意味では、どういう形で若い選手達に自分らしさというものを見せることができるのかという点があります。思い起こせば『ネオブラッド・トーナメント』での柳澤(龍志)選手との決勝で、体格差を持ち前のバランスとスピードで翻弄させて、圧倒的な強さで優勝した、あの頃の動きをどうやって伊藤選手は戻せるのか?という事だと思います。それに対してV-CROSSの小沢選手は、見た目地味な選手かも知れません。ですが、私は大変好きな選手です。実直で中々の実力者だと私は見ています。何と言っても彼はハートが強いです。ちょっとした精神の機微を表に出さないで、何が強いかと言ったら、その時点で、ちょっとまずいと思った時に前に出て来ます。私はそういうタイプの選手は素晴らしいと思います。今の時代、少し苦しい段階になると後ろに下がったり、すかす事を憶えます。しかし彼はそこから前へ前へ出て行くという事で、その様な面では選手として、ダメージ等、大変な部分もありますが、けれども、それに因って相手が攻め疲れたり、攻めあぐねたりするという事も多くあると思います。小沢選手の、何でも前に出てくる、かと言ってがむしゃらではありません。どんな局面でも何かを狙っていけるという、緻密であり、タフであるという小沢選手の闘い方に凄く注目していました。そいう意味で上手く噛み合う試合になるのではと、注目していた一戦でした。

試合は、2ラウンドをフルに闘って、伊藤選手の3-0での判定勝ちでした。3者20-18で、2ポイントの差、要するに1ラウンドづつ共に伊藤選手がとりましたという判定内容だったので、事前の小沢選手のイメージからすると少し差が付いたかなと思いましたが、それぐらい今回の伊藤選手は良かったです。伊藤選手が今更パンチの練習をそれ程するとは私は思ってないのですが、この4月23日の試合の後に高橋義生選手の試合が組まれていたりして(4/25『PRIDE』)、これは後で話しをしますが、高橋選手が横浜道場で練習をはじめてから、良い意味で、何ヶ月か前に道場論というのを話しましたが、そこに連動する形で、良い形で伊藤選手が影響されたというのが、1つこの結果だった様な気がします。具体的に言うと、左のリードジャブが序盤戦に小沢選手の顔面を見事にとらえました。ちょっと入って来ようとするところ、ちょっと後ろに退こうとするところに、その都度、伊藤選手の決して力みの無い左リードパンチが適確に当たっていました。そして今迄ならば単発になるところを、良いパンチを貰っても小沢選手が前に出ようとするところを、ストレートがワン・ツーで入り、それが当たったら返しの左がもう1発出て来たという、ワン・ツー・スリーを状況に応じて打ち分けていました。これが伊藤選手が自分のリズムで闘えたという、一つの勝因だったと思います。

今大会を通して、一番今迄のイメージを払拭して新しいイメージで闘い、勝てたのは、私は伊藤選手一人だと思います。そういう意味では、この日のヒーロー、一番良かった選手、MVPは伊藤選手だなと、そういうイメージを持てる程良かったです。何と言っても最大に良かった所は、伊藤選手がちゃんと練習をして、足で動いていた事です。足で打って、足で構えて、足で投げて、足で組んでいました。そして伊藤選手が「何か練習をしているな」と思わせるのは、5分2R・10分間、殆ど自分から動きにいって、動き続けているところです。伊藤選手がこんなにやれるのに、金井選手は何をしているんだという事で、大いに反省すべきだし、アライ選手は伊藤選手を良く見て、同じレスリングという下地の中で、伊藤選手はどうやって打っているのか、自分とは何が違うのかという事を考えて欲しいです。伊藤選手も一時、ケガをした時に、今のアライ選手と似た様な試合展開が続きました。立って動いてはいるのだけれど、離れ際、入り際に細かいシャープなパンチを受けて、ダメージを溜め込んでいきました。振り返って見てもらえればわかります。伊藤選手の2年前のビデオを見た後に、最近のアライ選手の試合を見れば、似ているなと思います。そのトンネルから伊藤選手はようやく抜け出そうなんです。そういう意味では、努力でこの日のMVPを飾った伊藤選手には、次の試合をもう一度見てみたいというチャンスが来るでしょう。

金井選手が見習うべき点は、普段とリング上の伊藤選手は凄く違います。違い過ぎて実は試合後にレフェリーから注意が出ています。ゴングの後、ノーサイドになった時点で、伊藤選手が小沢選手に一言二言吹きかけました。そして試合後に雰囲気が悪くなりましたが、私が担当レフェリーだったので、試合後きつくお灸を据えておきました。こういう事があってはいけないです。伊藤選手もそれに関して試合後に反省して、小沢選手に自主的に謝っていましたが、それはそれ、これはこれで、またその後に、担当レフェリーとしてお灸を据えときました。伊藤選手としては、せっかく良い勝ち方をしたのだから、サラッと格好良く、スマートにいこう、というところかも知れません。試合後、ホッとしたというのが伊藤選手の気持ちかも知れません。小沢選手としては、この日一番良い相手に当たってしまいましたが、前に前に出て行って、終了のゴングまで何とかしようとしているところ、試合を投げないところは本当に素晴らしかったです。

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