第5試合 フェザー級戦 5分2ラウンド
○前田吉朗(1R 1分32秒、KO/パンチによる)杉内勇×

杉内選手は『DEEP〜フューチャーキングトーナメント〜』なりで実績をあげての参戦ということで、とても良い選手だったと思います。動きも速く、力強さもあります。試合はたまたま1分32秒という時間で終わりましたが、立ち上がり、第1接点の、杉内選手の下からの膝から蹴りへ移行していくスピードは、戦慄さへ憶えました。あれは1歩間違えていれば、秒殺、0.何秒なんて試合になりかねない凄くスリリングなスタートでした。その部分では思い切りの良さ、度胸の良さ、技の切れ。杉内選手は前評判通りの選手だったと思います。

それに対して、最近ではパンクラス稲垣組を背負って立つところでは無く、パンクラスの顔になりつつある前田選手ですが、これに勝って10連勝という気負いも全く無く、淡々と試合をしていったと思います。普通なら今話をした様に、杉内選手の組み際のキック等でちょっとスリリングなケースがあれば、ちょっと間合いを取ったり、下がったりするのですが、全く物怖じせず、そのままいったところが1つの見所だったと思います。その後一度接点を取って、相手を見ていくという形の中で、やはり試合を決めたのは、前田選手独特のきちんと間合いを計っていく、まずはそれに終始するかも知れません。前田選手のパンチ、KO、キックと、10連勝の中ではそういう試合が多かったのですが、これは決して打ち方が強引であったり、強く打っている訳ではありません。まずインパクトをしっかり自分の中で持っている事、それから自分で打つ距離を十分わかっていて、その距離以外では打ちません。それは野球で言う、体勢を崩してまで打ちにいかないという事です。相手を十分手元まで引っ張り込んで来て、きちんと打つ。球技のスポーツでは極々当たり前の事です。ですが、これが格闘技という中では、恐くて中々出来ません。それが前田選手はきちんと出来ています。私にはややフックに見えましたが、それが綺麗に決まって、文句無しのKO勝利でした。試合後に前田選手に聞きましたが、これは第1試合の北岡選手も終始言っていましたが、何をどうやって勝つかというよりは、「自分が何をすべきかと、自分のポジションだけを一生懸命考えていました」という事を語っていました。

稲垣君もいたので、組長に前田選手の距離感というもの、打ちにいかないという事に対して、「稲垣君からはそういう指示が出ているのですか?」という話をしたのですが、これは通常の練習の中で、口が酸っぱくななる程言うとの事でした。「まずちゃんと自分が良い状態で準備出来ているかどうかという事に、私は重きを置いています」という話をしていました。これは昔の武術で言うところの「備え」という状態で、当然ですが、意外に今トリッキーな事が流行ってしまったりすると、そういうものを失いかけているのですが、大変オーソドックスに構えて、大変オーソドックスに相手に組みしていくという、その中には目に見えない技術があります。多く動いてはいないけど、上の技術というものがあります。同じ技術でも動いている方が技術が無かったりします。そういう意味で前田選手の、この安定した10連勝、これは本当にフロッグではありません。この後どんどん強い相手と闘う事になると思いますが、果たして前田/稲垣ワールドはどこまで行くのか。しかしパンクラスファンの方々には安心してもらいたいと思いますが、前田選手は現状を良しとしていません。これは大変心強いです。これは稲垣組長も言っていましたが、前田選手は純粋で素直、言われた事をきちんとした上で、尚且つ、「もっとこうしたいのだけど、どうしたら良いのですか?」という質問をしてくるそうです。これは教える側、教わる側の大変良い関係です。この関係がある以上、例え次の試合で負けたとしても、前田選手はまた勝ち続けると思います。いつか負けるかも知れません。だからこそ目の前の試合はきちんと勝っていくんだという、淡々とした試合運びが、私は稲垣君が教えた子供だな、教え子だなと、そういう臭いを感じ取れました。そういう意味では前田強しという、そんな試合でした。

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