第6試合 ミドル級戦 5分3ラウンド
△竹内出(3R 5分00秒、判定/0-0)渋谷修身△

ここ数大会、判定試合の%が多いパンクラスのリングにおいて、気付いたら反則なり何なりというものがありましたが、それでも今大会は5試合連続KOの、完全決着で試合が終っています。その中で選手が入り乱れたり、反則のコールが出たりして、特に第1、第2試合の松宮レフェリーはレフェリー・デビュー戦にもかかわらず1度もウィナーコールをせずに終りました(苦笑)。野球で言うゲームセットとは言ってませんから、そういう意味では波瀾万丈の、その内数試合は担架も出ています。試合直後には今迄の5試合全部に担架が用意されてました。実際に使ったのは2試合という荒れた試合の中で、しかもミドル級の台風の目、竹内選手と渋谷選手、何か起きるのではという嫌な予感、物凄い雰囲気の中でのこの試合でした。

荒れた試合という話になりましたが、この試合は1R〜3R全て、立ち技の様子を見てお互いのパンチのラッシュ、そして離れ際、付き際、踏み込み際に渋谷選手の左ロー、そしてスタンドの四つの状態からの竹内選手の膝蹴り、それを返す様に渋谷選手の膝蹴り。竹内選手の膝蹴りは渋谷選手の足へ、渋谷選手の膝蹴りは竹内選手のボディーへ、という様な展開でした。基本的なスタンドでの組んでの打ち合い、ニュートラルコーナー、もしくは竹内選手が青コーナーに押し込んでの、もしくは引き込んでの展開が1〜3Rまでフルに続きました。お互い投げをうっていくというシーンもありましたが、序盤では試合が動いてヒールを取りにいったり、足首を取りにいったりという展開で動いたので、この試合は動きが激しいのかなと思ったのですが、そこから先は中々決め手に欠く、本当に互角の試合でした。よく四つに組んでしまって、休んでいる試合があります。組んでどうしようか、お互いポジションを取り、様子を見ながら、どこで引っ掛けようか、足をかけようか、引っ張りこもうかといった様な試合展開がありますが、この試合に限っては、ずっと組んでいてもフル出力です。常に相手にプレッシャーを掛けながらという形なので、安易な膝蹴りも出せず、という展開でした。その中で試合が動いたのは3R序盤でした。担当レフェリーは小菅レフェリーでしたが、丁度1分過ぎ辺り、両選手が青コーナーで立ち位置を変えながら膝蹴りの攻防でした。その時、竹内選手の膝蹴りが流れる形で渋谷選手のファールカップをかすりました。私はその時コーナー外の柵の所で見ていましたが、擦れる様な感じでお腹の方へ流れた蹴りで、私の立場からすると、それは渋谷選手の体で見辛いのですが、長年の経験で、それは流れて行く蹴りで股間に入っていく蹴りでは無いと判断したので、小菅レフェリーの判断の元、そのまま試合は流れていきます。そしてその後、渋谷選手の膝蹴りが竹内選手の左の肋骨に入った時点で試合が止められ、小菅レフェリーから渋谷選手のローブローという裁定がおきます。これは良し悪しは別として、下から見ているサブレフェリーの私と松宮レフェリーで、松宮レフェリーが竹内選手側、私が渋谷選手側から見ていて、いずれもローブローではないと判断したもので、試合を止めてもらい、それでメインレフリーと話しをして、ローブローの事実は無いという事で、試合は同じポジションから再開するという形になります。その後3分過ぎぐらいにスタンドの展開で、離れた所でパンチとキックの応酬という形の中で、渋谷選手のこの日の中で一番良いローキックが竹内選手の左足を捕え、1発2発とたたみかけて打ちます。これはダメージがあったのだと思います、竹内選手はこれを嫌って、左足を引きながら、深く踏み込んで、腰を低く落として組み付きに、タックルにいきます。その腰を落としたタイミングと、渋谷選手が2発目3発目とリズム良く蹴ろうとして3発目を出した時が、丁度タイミング良く合いました。それで踏み込んで来た竹内選手に対して、ローキックがローブローに変わるという形で、竹内選手の股間にヒットしてしまいます。ですが竹内選手は流石だなと思うのは、それでも渋谷選手の腰に手を回して、ポジションを1度固めますが、そこでローブローを認識できた私達サブレフェリーがホイッスルを吹いて、試合は流れていましたが、今度は「ローブローですよ」という形で試合を1回止め、竹内選手の回復を待ち、それで試合を再開したという流れになりました。結果的にはそのまま時間切れになりましたが、流石だなと思うのは、最後1分を切った辺りから、両選手共に足を止めてでも打ち合うくらいの、「この試合、絶対に勝ってやる」という、勢いがありました。その部分では良い試合だったなと思います。動きが取れない事には、実力伯仲の両者には中々決定打まで持って来れなかったという事実があると思います。その中で試合はどちらも決定ポイントが無いという事で、引き分けという形で終わりました。

波乱が起きたのは、小菅レフェリーの判定ミスという言い方になってしまう事に関して、審判部長である私が言わねばならないので言っておきます。これは“判定”というものではありません。判定というのは誰もが見ていれば判る事だったり、ルール上はっきりしている事です。ここでメインレフェリーというのは、良く見える位置にいて、良く見なければなりませんが、実は視野というのをものすごく広く取らなければなりません。試合が良く見える位置できちんと立ってはいますが、特にコーナーポストであるとか、動きの中で急激に動いたり等の展開の時は、どうしてもレフェリーが1歩遅れてしまう事がなきにしもあらずです。その中で見難いポジションがあって、それが反則だったりする時は、往々にしてあります。

偶然見難い角度になって反則が起きる事もあります。ここで「審判団に問題があるのでは」という話になるのでしょうけど、審判部長としてしっかり言っておかなければならないのは、審判部がきちんとしているから、ホイッスルで1度試合を止めます。今のは違っているというサブレフェリーの判断をきちんとそこで、試合を適当な所で流させない為に、その時試合を止めなければなりません。そしてなるべく公正な試合の判断をするという事で、レフェリーが集まってそれぞれの立場の中で見える範囲の中、起きた事実を判断して、審判団として判定します。メインレフェリーはあくまでもコールをしたり等の窓口にしか過ぎないという部分があります。ですから窓口のレフェリーが通常きちんと情報を入れて、きちんとレフェリングはしていますが、死角で見えない一瞬等、見えない所で何かが起きた時、気付かない所で何かが起きた時はサブレフェリーがメインレフェリーの役目をしてジャッジするという事も十分あるという事がパンクラスの審判団の基本です。この場合は、そのルールに従って行われたという事です。第1試合に関しても、オフィシャルルール第9章・反則/第21条11.“メインレフェリーが『ブレイク』もしくは『ストップ』をコールしたにもかかわらず攻撃をやめない。” という項目がちゃんと出ています。

そのルールに外れたものに関しては厳しく処罰するし、それぞれの反則行為というものを、その瞬間瞬間の中から判断しながら、正確にその試合を流していかなければなりません。その中で正確さを欠いたとしても、そのまま試合を流してしまった方が、選手が試合をし易いが為に暗黙に流してしまった方が良いのか、それとも試合をルールに従ってきちんと進める為に、試合を止めなければならないのかと言ったら、パンクラスのリングは後者を取りますので、一見不手際の様に見えてしまうかも知れません。レフェリー陣がちゃんとしていないから、そういうふうに試合がゴタゴタする様に見えてしまうかも知れないけど、それは逆です。試合をちゃんとルール上遂行させる為に、試合が流れているからそれで良しと適当に収めない事です。不手際が不手際として判る様に、はっきりさせる為にレフェリー陣はそのルールを守って、メインレフェリー、サブレフェリー、そしてジャッジという様に、分担して仕事をしている訳なので、今回はそういう意味では小菅レフェリー1人にスポットが当たる形になりましたが、それは小菅レフェリーの技術がどうこうでは無く、審判団として、死角の中で反則が行われてしまったものを矯正して、然るべき形の中で公正な形の中で試合を再開させる為の手段として、試合が何回か止められたという事です。そこは小菅レフェリーと審判団の名誉の為に私も付け加えておきます。

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