セミファイナル ウェルター級戦 5分3ラウンド
ランキング2位
ヒース・シムズ
(チーム・クエスト)
ランキング4位
北岡悟
(パンクラスism)
3R 5分00秒、判定/1-0
判定:和田良覚(28-29)大藪吉郁(29-29)梅木良則(29-29)
■ヒース・シムズ(74.8kg)
■北岡悟(74.9kg) セコンド:近藤有己、大石幸史
レフェリー:廣戸聡一

この試合も、判定は29-29、若しくは29-28という試合です。どちらもマークがありませんから、3ラウンドの中で、お互いがラウンドを取っていると判断して良いと思います。ですから、そういう意味では見応えのある試合でした。結果的には引き分けになりましたが、お互いが終始一本を取りにいくという、強い姿勢でした。そういうものの中では、ウェルター級ではあるけれども、やはり第7試合でやるべき試合で、シムズ選手のクオリィティーの高さ、北岡選手のここ2年、はっきり言いますが、2年間、北岡選手がどのぐらいの思いで練習してきたかという事が、ウェルター級でありながら、第7試合という位置に来て、ドローでありながら、説得力を持った試合というのは、意味があったと思います。

試合はシムズ選手の変化に富んだ打撃、力強いスタンドの打撃、それに対して北岡選手が変化を持たせて行きながら、遠い間合いからテークダウンを狙いにいく、そういう試合に終始しました。その遠目のタックルをシムズ選手ががぶって潰すプロセスの中で、北岡選手が足技にいく、それを潰してシムズ選手が、グラウンドの攻防からパンチを顔面に入れていくという、この凌ぎあいでした。ですから、そのまま崩れて、関節を取りにいって、グラウンドの展開に持っていこうとするところで、時に北岡選手がポイントを取り、それを潰してのパンチでダメージを与えていくという所でシムズ選手のポイントだったと思います。2ラウンド以降は、北岡選手の口からの出血量も多かったですから、そういう意味ではシムズ選手のパンチの威力が凄くあったと思うし、グラウンドの展開に北岡選手が持ち込もうとする時点で、シムズ選手がスタンドの展開に持っていくというところでは、北岡選手のグラウンドには付き合いたくないというところだと思います。実際グラウンドでの展開で足首の取り合いになった時、シムズ選手は防戦をしながら逃げて凌ぎ、逆に仕掛け返すという事はしませんでしたから、そういう意味では、相当外国人選手の中にも北岡選手のグラップリングの能力というのが認知されてきていると思います。

今回のこのドローの最大のポイントは、北岡選手がシムズ選手の間合いを読み取ったという事だと思います。北岡選手は一見すると遠い間合いで、開始早々ながら、かなり遠い所からタックルにいってます。これは中々やれそうで出来ません。何故かと言うと、シムズ選手は構えのイメージよりも、ヒットポイントが遠いです。一般的にスッと構えてしまうと、かなりヒットポイントを自分の方に持って来られてしまうので、思ったよりもパンチが伸びて来るという形態の選手で、そして威力もあります。それを肌で感じた北岡選手が、外に内にという形の中で、距離を斜めに取りながら、間合いを嫌って、遠目に取りました。逆にシムズ選手がそこから踏み込んで来ようとすると、北岡選手もそれを返り討ちにするパンチもあるし、それはシムズ選手も察するから、そこで自分からは大きく踏み込まないという形だと思います。ですから、北岡選手が遠い間合いから、前足からのタックルにドンドンいかなければ、意外にスタンドで拮抗した試合、お互いに距離を見合うという試合になったと思います。それを北岡選手が立ったら前足タックル、立ったら前足タックルという形で、仕掛けていった事。これはやはり一皮剥けたなと思います。彼は受ける試合しかしなかった時期がありましたが、強引に受け返しの試合をしていた所から、自分から試合を動かしていくという所まで変貌してきたというのは、並大抵の努力ではないと思います。映像で見る機会がありましたら、北岡選手がリングから去って行く背中を見て下さい。あの背中の筋肉の隆起、あれは一長一短では出来ない体です。北岡選手が、今一番良い体をしてるかも知れません。それだけ良い練習をしているという事です。危険を背負っても自分が攻めていくというその姿勢、これがismです。積極的に自分で試合を動かしていく、ドンドン危険を冒してでも、自分の形でいこうとする姿勢、何の為にリングに上がったのかという使命感、相手が何人(なんびと)であれ、自分がやろうとしている事自体を、どんどん表現していく。その表現力が付いて来ました。アーティストと呼んで良いかも知れません。

さぁ、ここから北岡選手が目指す事は、取りこぼしをしない事、勝ち星を連ねていく事、これが“北岡”というネームバリューも上げていくし、やる事だと思います。対戦相手は、厳しい、良い相手が次々と当たるようになると思いますし、喜びがそこにあると思いますが、それだけで満足せず、その選手を捻じ伏せていくという快感の世界に彼が目覚めた時に、パンクラスismの代表的な選手として、近藤 有己に続く、主砲に成り得る状況だと思います。それに続く若い世代は、徐々にパンクラスの中に若手選手として出て来ています。それを脅かす、同じ様なスタイルを持った今回の、白井選手、中西選手、和田選手、井上選手、そういった若い世代が出てきています。そういう、勢いのあるリングを創ってもらいたいです。そういう意味では、北岡選手のパーソナリティーというのは、ドンドン膨れていくと思います。大きく期待してもらいたいです。機会があれば、“レッシュの視点”でも良いし、何年か前のPOVを呼んでもらえればわかると思います。決して北岡選手に肩入れしてるわけではありませんが、「今、ここで頑張ったら変わるぞ」と、2年前ぐらいに言った事を、彼はちゃんと忠実に守ってここまで来てくれています。人は変われます。これはファンの方も、自分の仕事であったり、クラブ活動であったり、趣味の世界であったり、色んな事があると思いますが、それを他人の所為にすべきではありません。自分が変わろうと思ったら、1年、2年という長い期間かも知れないですけど、でもそれをやったら、変われます。そういう勇気を、パンクラスのリングを通して掴んでもらいたいなと、そんな意味のある試合でした。立派なドローでした。

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