メインイベント ミドル級戦 5分3ラウンド
ランキング4位
石川英司
(パンクラスGRABAKA)

岡見勇信
(和術慧舟會東京本部)
3R 5分00秒、判定/0-3
判定:梅木良則(28-30)大藪吉郁(28-30)小菅賢次(29-30)
■石川英司(81.9kg) セコンド:郷野聡寛、佐々木有生
■岡見勇信(81.7kg) セコンド:戸井田カツヤ
レフェリー:廣戸聡一

この試合、お互いパウンド勝負という、それを得意とする2人が闘うという事で、その勝負になるのは、その形になるまでのプロセスをどちらが取るかという事です。その部分で注目していたのは、四つに組んだ時に、どちらがどの様にそれを征するかという事です。イメージならば、高い身長と長い手足を駆使した岡見選手が上からプレッシャーをかけながら引き落としていくか、それとも石川選手が低い体勢から相手の下半身をコントロールして、テークダウンを取っていくかという見所で、私は序盤を見ていました。1ラウンドは双方四つになった所で、そこから一進一退の展開でした。一見何事もないように見えたかも知れませんが、私は担当レフェリーだったので良く見えてましたけど、これはと思った瞬間があります。それは石川選手がロープを背にして、岡見選手が組んだ状態から実に良いタイミングで膝を出します。ローブロー気味に当たるので、そこは注意してましたが、その膝を変更してクロスで石川選手の右内腿に繰り返し出す様になりました。これは痛いぞ(笑)という、ダメージ力が高いものを岡見選手が駆使しだしてから、流れは岡見選手にいった様です。2ラウンド終了間際から、石川選手は右足が使えなくなりましたので、構えが微妙に後ろ足加重になりました。そこで、手足の猛攻から胴タックルという形の流れが作れなくなりました。逆に距離を空けての打撃を上手く見透かし、自分の形で組んでいく岡見選手のらしさが出てきて、3ラウンドはその中で終始自分のペ-スで安定した闘い方をしていくという様になっていました。実は勝負は1ラウンドに決していた様な、チャンスカードは岡見選手が取った様な気がしました。2、3ラウンドは、安定して闘った岡見選手が、岡見選手らしく闘いました。石川選手はその中でも、流石パンクラスのリングで鍛えられたなと思うのは、そうなってくると、普通自分のスタイルを変えて、変化を付けていったりする人がいますが、最後までスタイルを貫きました。

この試合で良いなと思った瞬間がありましたが、石川選手のセコンドに佐々木有生選手がいて、窮地に入り、せめぎあいで後退する時、興奮しながら凄い形相で、「ここで引くな、前に出ろ」と、「今動かなくては駄目だ」という事を、彼が思いの丈をぶちまけながら声援していました。それは彼が自らに言っいてる事を、石川選手に言ってる様な気がしてなりませんでした。ですが、応援してる両手がロープの中に入ってきたので、さりげなく私は注意しましたけど(笑)。それは試合とは違うところで、男っぽい世界の中にロマンみたいなものを感じて、良いなと思いました。いつも練習している仲間達の中で、実は自分が培われ、セコンドというのはただ単に時間を教えて水を飲ますだけのものではありません。相手が命を削っているものを、同じ目線でリングに近づいているだけで、実は佐々木選手も石川選手のお陰で育てられたのではないだろうかという思いがあります。試合にいくまでの練習では、石川選手が佐々木選手に育てられ、送り出してもらったのだと思います。でも、それは違う形で、石川選手がリング上から佐々木選手へ逆に思いを返している様な気がして、パンクラスのリングというものが、ただ単にキャンバスを血に染める場所ではないということを感じました。若い精神のほとばしりみたいなものが、コーナーからお互いを睨み合い、飛び交いますが、それぞれにきちんとした思いがあり、きちんとしたルールにのっとった中で、そういう意思表示をしていくというリングの中は、ただ単に相手を倒し、レフェリーの制止も聞かず、徹底的にやっつけるという暴力とは違うものがきちんと根差してるのだという事を、凄く強く感じたファイナルマッチでした。

総括
全8試合の内、今大会は判定の試合が2試合で、後は決着がついています。拮抗したレベルになってくれば、判定の時もあるし、一本というわかり易い結果の試合もあります。ただ、今回のこのカードと顔ぶれを見た時に、選手達の意思は一本勝ちするぜという姿勢を凄く感じました。自分のスタイルを貫くという基本的な勇気。これが今回の後楽園ホール大会のテーマだった様な気がします。一本取って勝つんだという、実は一番試合としては一方的で、あッと言う間に終ってしまった第5試合のミドル級戦、渋谷修身の試合に、この日のテーマがあった様な気がします。是が非でも渋谷修身の頭にはNKホールがありました。こんな所では足を止めてられないんだというところです。これは相手を呑んでかかるとか、そういう事ではありませんし、なめてかかってるわけでもありません。ただ自分が今までやって来た、選手としての全てをこの試合に集中するから、秒殺劇に繋がったのでしょう。キム選手が何も出来なかった、1歩も動けなかった、これは技術云々の問題では無く、「俺を誰だと思ってるんだ!この野郎!」という、渋谷修身の雄叫びが、この後楽園ホールに木霊していた様な気がします。

後は余談ですが、佐藤選手が、リング上から自分の思いを言葉にしました。彼は彼で試合後に騒ぎを起こしてしまい、すいませんと反省しきりの部分がありました。それは良いと思います、そう佐藤選手が思ったのですから。ただ、マイクを使うという事は、パフォーマンスでは無いという事を肝に命じた方が良いです。マイクを通して喋るという事は、私語ではありませんから、「ごめん。間違えた」では許されません。それだけは本人に強く言いました。何を言っても良いし、彼の日常の練習、姿勢等、そういう物を良く感じられる立場から、彼が何となく思い付きで言っている訳では無い事はわかっていますし、意を決しているのはわかります。それは絶対に間違いではないし、それはそれで良いと思います。但し、お客さまが沸き、自分が目立って良かった、気持ち良かった、そんな物では許されない範囲です。何故なら公的な言葉となります。彼は、「闘え」と言いました。という事は、返す返すも鈴木みのるというのは、パンクラスの歴史の中でチャンピオンベルトを腰に巻いた男です。あの『U.F.C.』の雄、ウェイン・シャムロックの足を圧し折り、ベルトを巻いた経歴を持っている男に、「俺と闘え」と言うほど、あなたはレベルが上がっているのか?そんな事を言える者なのか? 思いは思いで良いのですが、言ったのだったら、本当にやりなさいという事です。試合が組まれるか否かという事では無く、それぐらいのレベルまで必死になって、自分が上がって来てるのか? 吐いた唾を飲み込むなという事は言いました。それでも言ってしまったのだから、悪く無いし、逆に言えば良く言った、それは良いです。しかし、明日から練習量を倍にしなさいと告げました。何をしても良いです。若いから可能性もありますが、その責任はマイクパフォーマンスなんていう軽い物で言うなという事です。昔の武士、武道、武術の世界ならば大問題で、お家騒動で、1発殴られる程度では済みません。これはどんな選手にも言っておきます。プロのリングでマイクパフォーマンスをしたり、何かする事は、ある種憧れだし、気持ちの良いものだろうし、自己主張するというところでは凄く良い事です。でもそれは、責任が発生するという事です。バックステージで誰かと世間話をする事とは全然訳が違います。言ったら永遠と残りますから、それに対する起承転結を付けなければならず、言い放しにするのが一番いけない事です。そういう意味では責任を取れよという事を、私は佐藤光留には言ったつもりです。

それ以上に、あなたは大人気無いでしょうという事と、後は、一生懸命命を削り、命を賭けて闘っている男達と同様、あなたもそうだったし、そういう事を目指して、あなたがそういう場所を作ったんだろう、鈴木みのる、それであのバックステージのすったもんだは何だ、という事を彼には言いました。それをやる事で、真剣にやっている人達の姿が嘘に見えてしまったり、茶番に見えたりする事、その責任は取れないという事を彼は自分でも理解したし、そういう話を彼とはしました。そういう意味では多く大いに反省してもらわなくてはいけません。暴力を振るったとか、そういう事では無く、世の中は全て好意的に見てくれる人達ではありません。これはパンクラスを旗揚げする時にも彼等に言いました。だから肉体改造をしろと言いました。それと同じ事です。その一瞬で会場が盛り上がったり、注目をしたり、格闘技雑誌の一部分では、それを取り上げられる事があるかも知れません。ですが、それを取り上げられるお陰で、命を賭けて闘った試合が告知されない若い選手がいるという事を、彼は認識しなくてはなりません。こんな茶番の鈴木みのるが暴れたなんていう内容が、それなりに活字になったり写真に載る事は、他のプロレスならば、それは見慣れている光景かも知れません。でもそれが載るお陰で、誌面の都合上カットされて、試合を告知されない若手の人達が、この中に何人いるかと言った時に、その責任をあなたはどう取るのかという事です。そんな茶番が表に出て、面白おかしくされるよりも、命を賭け、渋谷修身が猛々しく心から吠えているものを多く伝えてもらいたい。逆に言えば、メディアの人達もそういう所を拾ってもらいたいと思います。リアリストが少なくなって来た事。それがこの格闘技界ではリアルファイトをしている割には、リアルな事を伝えてくれるメディアの人達が少なくなって来ている様な気がします。そんな苦言になりましたが、それを呈するほど、この日の後楽園ホールは本当に一本を取りにいくという、本当の格闘家の姿を私は見れた様な気がして、今年の中で試合が終った後に、一番拍手を自分1人で贈りたい、そんな後味のある本当に良い大会だったと思います。