第2試合 ウェルター級戦 5分3ラウンド
ランキング6位
北岡悟
(パンクラスism)
ランキング8位
井上克也
(和術慧舟會 RJW)
3R 5分00秒、判定/0-3
判定:梅木良則(28-30)廣戸聡一(29-30)岡本浩稔(28-30)
■北岡悟(74.9kg) セコンド:大石幸史
■井上克也(74.7kg) セコンド:光岡映二
レフェリー:和田良覚

ここ1年ぐらいの精進が今年になって実を結び、試合内容が凄く良い形で出ている北岡選手。そしてレスリングをベースに持ちながら、全てにバランス良く闘っている井上選手の、それぞれの技術対決が一つの見物でした。北岡選手としてはタックルから良い形に引き込み、持ち込みたい、そして井上選手は自分の形からリフトして投げて、自分のペースを作って行く。お互いの組み合いに凌ぎの接点があるイメージでしたが、相計らんや、開始から微妙なスタンドの打撃の勝負になりました。

レスリングを勉強して行く中には、パンチングの要素が凄くあると思っています。レスリングというのは、きちんと踏み込みをして相手に接触、タックル等をしないと、生半可に上半身から触りに行くと、アッと言う間に自分が劣勢になる競技ですから、きちんとした形で相手に接触するというのが、究極のレスリングの基本だと思います。レスリングベースの選手というのは、実はリードパンチ等が凄く上手いです。もちろん練習の中で身体能力等が上がって来るのですが、バランス良く、無理に取りに行かず、脚できちんと攻め、取りに行く習慣が出来てるので、打ったり殴ったりする間合いと、手を伸ばし相手を捕らえる事自体、あまり変りません。井上選手は実にバランス良く自分の“間合い”というモノの中で打撃を出している印象が凄く強く、故にパンチを空かしてタックルと言っても、未だ足腰が生きてる状態でのパンチですから、なかなかカウンターのタックルには行けません。そういうところで北岡選手は、どの様な苦労をするのかと思いました。また、投げたとしても、組んでレスリングをしようとしても、柔術的に自分の力を上手く抜けませんでした。相手の接触する感覚を上手くコントロールして行くのが柔術の一つのポイントです。お互い力で掴み合い、投げ合うのはさほど難しくないのですが、力を上手く抜いて、重心を下げられてしまうと、意外に人というのは持ち上げたり、投げ難いです。ですからお互いの技術で消し合う事も出来る試合だったのですが、そこのところではお互いが上手く相手にチャンスカードを引かせませんでした。

北岡選手は相手を上手くグラウンドで引き込み、足への関節なり、何なりに行きたかったのですが、それを井上選手に許してもらえませんでした。テークダウンを取られたり、タックルでグラウンドに引き込むチャンスのある、十分な状態には出来るけれども、井上選手がそこを凌いで行く展開でした。そういうスタンドの組み合いの中から、何とかリフトして投げて突破口を開きたい、もしくはそういうダメージを与えたいという井上選手の目論見自体は、北岡選手のボディーコントロールに因り、させてもらえませんでしたが、一度だけリフトを試みたものの、それも上手く行きませんでした。その様にお互い消し合ったと思います。そういう意味では両選手共に次のステップに上がって行く、もしくはここ数試合、大変高い勝率で試合を闘っている選手であるというところが、良く見て取れる試合だったと思います。その中で一つ気になったのが、北岡選手の構えが、普段よりも少し変った事です。立ち技の打撃の攻防の中で、どんどん半身になってしまいました。これはある技術的な欠点があり、それをどう克服するかという事ですが、半身にならざるを得ない理由があります。それはさて置き、構えている内にドンドン、体が反転して行きます。相手に真横を向く、もしくは気が付くと相手に少しだけ背中を向けてしまうケースが今回は多かったです。それだけ井上選手のプレッシャーが強かったという事も言えるし、実際に打撃の効力は強かったです。開始早々に良いパンチを貰い、やや尻餅をついてしまうという幕開けでした。試合のイメージはどうでしたかと言われれば、一発の強さが井上選手にはある、という一事に尽きてしまうかもしれません。北岡選手は常に動き、出力しているけれども、それを一発に集約するところが今回は見て取れませんでした。それが最終的に判定の差になったのだと思います。積極性はどちらにあったか、という事であれば、北岡選手の方が自分からどんどん攻めて行くというイメージがありましたし、タックルも何本も取っていました。ただ、それを上手く凌ぎながら、立ち技の打撃では井上選手が主導権を取っていました。そういう点では凌ぎを削りながら、結果的に有効打の多くあった井上選手の強さが目立った試合でした。凄い試合でした。2人出て闘うのですから、どちらかが勝ち、負ける訳です。ですから勝敗で北岡選手が負けたのは仕方ありませんし、逆に言えば井上選手がよく勝ったという事です。

良い試合だったのですから、北岡選手の試合後のインタビューが無かったのは、どうなのかと思います。スポーツマンとして、プロとして、試合後のコメントもきちんと出せて、初めてプロだと思います。負けてしまって、悔しさ、残念な気持ち等色々ありますが、ですが、その気持ちを伝えるのもプロです。勝った瞬間と、自分の良い所だけを伝えるのではなく、苦境に立ったり、辛い思いをした事も多くのファンに伝えるという事、その世界があるから、勝った時に、お客様は逆に自分の事の様に歓喜してくれる事が、プロのステージを高めて行く、一つの効果だと思います。ですから、この後に試合をした郷野選手、菊田選手、マーコート選手、三崎選手、近藤選手などは、皆大きな所で、大きな負けをしています。その時に、ちゃんと自分の気持ちを吐露し、負けっぷりもファンの皆さんが理解し、その上で、復活した、あれからまた強くなった、そして今回も勝ってくれた、という思いがあるから、会場が沸くのであって、勝った時だけ喜んで、負けた時はそそくさといなくなってしまうのでは、ファンの皆さんは応援し辛いです。そういう意味で、北岡選手は、肉体も技術も変えて来たのだから、今度はそこを変えるべきだなと思います。それがまた来年に繋がります。年末に入り、こういう大きな大会に、自分が望んだ大会に出場させてもらったのだから、それに対してコメントを出すのが礼儀です。こういう事でインタビューを受けられないのであれば、甘ったれているだけで、所詮それだけの選手です。厳しい事を言いましたが、彼ならそれに応えてくれると思い、敢えて言いました。勝っても、負けても、いつもの北岡 悟でいなければならない、というのがプロです。

井上選手には、その覚悟が見て取れて、凄く頼もしく見えました。この強さをウェルター級の上の選手達にぶつけて、一気に自分らしさを出して貰いたいなと思います。 良い試合でした。

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