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見所は1ラウンドの立ち上がり、1分間でした。物凄い回転の速いパンチの応酬の中で、有効打を当てられる事無く、テークダウンを取りに行ったところに近藤 有己の進化がまた見られ、それがこの試合の全てでした。2、3Rも同じ展開の中でテークダウンを取って行きました。速い回転で打ち合う所に、2人の優劣は既にありました。近藤選手が前回敗戦した、シウバ選手の強さの秘訣は、回転の速いパンチを足の動きも伴いながら打てる事です。ですから、後ろにまともに下がったら、足で追いかけながら打って来られるので、後ろに下がった時点で守りの形、闘うリズムが崩れ、そこを安定した回転で打たれたのでは、ひとたまりもありません。近藤選手は、それを試合の中で充分学び取って来たのだと思います。上半身を振って捌けるパンチは限られてますから、足が動いてこその格闘技です。これは井上選手のところで話しましたが、パンチは足が動いてこそです。それが今回の近藤選手には十分見られました。体を捌いて、足が連動してるから、そのままスッと踏み込んで懐に入れました。それが良い形で入っているから、体の出力のあるサイボーグ選手も一たまり無くテークダウンを取られました。そして、シウバ選手の様な回転に速さのある、パンチのあるサイボーグ選手でしたが、唯一違っていたのは、足が止まって打つというところです。足が止まって打ち、上半身がグラつき、上半身に力が溜まっている時に、さっと良い形で組まれてしまい、その体勢のままにグラウンドで展開されてしまうので、そこから何もさせてもらえませんでした。この事に付きます。もし、サイボーグ選手のハートが折れていたなら、3Rまでに終ってしまったと思います。他の見所として、グラウンドに入って行きながら、近藤選手のアームバーの攻防、そこはブラジル人選手らしく、上手く肩の可動範囲を利用し、何回か逃げますが、サイボーグ選手相手にパンチを出させず、きちんとテークダウンを取り、腕を決める形に持って行きつつ、最終的にゴングが鳴った時はフロントチョークになっていましたが、ゴング直前でサイボーグ選手は白目を剥き、落ちる寸前でしたから、あと10秒あったなら、試合は判定ではなくレフェリーストップになっていたと思います。覗き込んだら完全に決まっていて、止めるか否かと、残り時間のコールがはいってましたので、ここはきちんとみてよう思い、サイボーグ選手はゴングに救われたというのが、今回の試合の素直なところです。完全決着も付けながら、判定でも4ポイント差を付けていますから、正に近藤選手の完勝です。サイボーグ選手が決してあなどれない、易しい相手ではないだけに、経験値を高め、進化している近藤選手の強さというモノが垣間見れました。 最後の彼のリングからのコメントも含めて、これからは勝ってパンクラスの歴史を変えて行くという、力強い言葉をそのまま証明してくれる試合だったと思います。 今回のNKホール大会は良い試合が多かったです。1本勝ちもあり、判定もありましたが、判定の試合でも見所が十分あったし、伝わるところがたくさんありました。お客様も、どちらかと言うと自分の応援している選手に絶対勝ってもらいたいという、悲痛な声援が多かったです(笑)。これは思い入れの強いファンの方だと思いますから、それに応えた選手、応えられなかった選手がいましたけれども、しかしいずれにしても、技術が拮抗しての勝敗という部分からするならば、ここで勝った負けたよりも、このNKホール大会に名前を連ねられたというところに、出場した16選手は、どうか誇りを持って次の試合、2005年の試合に駒を進めていただきたいと思いますし、普段の練習も、今以上に頑張ってもらいたいと思います。個人的に言うと、私もデビュー戦はNKホールでしたので、それがなくなってしまうというのは、寂しいなという気がします。ここでの想い出として、ルッテンvs船木戦で、彼の体の調整をしながら、「絶対に諦めない」という約束をしていました。いろんな迷いの末に行き着いたのは、諦めずに最後まで力を出しきる事というところでした。ビデオで見ていただければおわかりになるかもしれませんが、船木君が倒れ、最終的に私がそれを止め、彼に駆け寄った時に、彼の唇が動きます。「僕は約束を守りましたよ」という事を、彼はあのリングで大の字になりながら私に伝えますが、私に伝えなくても良いのに、と思ったりもしました。 そして一番の思い出は稲垣君です。彼と私のデビュー戦は同じNKホールの旗揚げ戦で、vs鈴木みのる戦でした。彼にとって、鈴木みのるというのは、同じ年ながら、強烈な先輩後輩という位置付けがあって、しかも皆さんご存知の通り、鈴木みのるというのはああいうキャラクターの男ですが、本当は温かく、優しい、良い男です。反面、冷酷で恐かったりもします。私はその試合前に、アップでディズニーランドの周りを30分程走りましたが、行く前に彼に「走りに行ってくるから」と伝えると、「僕も一緒に行って良いですか」と言って、試合前なのに、私は「何をそんなにダッシュしてんだよ」と言ったのですが(笑)、彼はショートダッシュを何回も繰り返して、ヘトヘトになって戻って来ました。私は大丈夫なのかなと思ったのですが、彼はじっとしてられなくて、それならば試合前にやれることだけやってしまいたいという、リアルファイターの本当に素直なところを、私のデビュー前に見せてもらえたというのが、総合格闘技のレフェリーを10年以上やらせていただいてる中で、選手に対峙する位置付け、そういうモノを何となく植え付けてくれたのは、実は旗揚げ戦前、2人で走って行く中で、色んな思いを整備出来た事が、NKホールでの1番の想い出です。ですから、そのホールがなくなってしまうのは淋しい事ですが、いよいよ次の段階に物事が進んで行くと言うところでのお別れと考えるならば、2005年の新シリーズが始まって行く1つのプロローグとして、この大会は句読点の打たれた試合だったという様に思います。 |