メインイベント ライトヘビー級戦 5分3ラウンド
ランキング5位
渡辺大介
(パンクラスism)

ケステゥシャス・アルボーシャス
(ラトビア士道館)
3R 5分00秒、判定/0-3
判定:梅木良則(30-30)岡本浩稔(30-29)廣戸聡一(30-29)
■渡辺大介(88.0kg) セコンド:伊藤崇文、佐藤光留
■ケステゥシャス・アルボーシャス(88.8kg)
レフェリー:廣戸聡一

渡辺選手は序盤から相手を見過ぎたという展開でした。アルボーシャス選手は自分の空手をベースにした、積極的に前に出て行く闘い方をしました。開始早々のアルボーシャス選手の強いストレート、強いローキック、この試合はこれにつきます。それがあった為に、渡辺選手はそれを規準にした闘い方になってしまいました。渡辺選手の一番良いところは、前に前に出て行くところです。崩れても良いから前に前に出て行ってタフに闘う事であり、決して上手く闘うタイプの選手ではありません。それを綺麗にスカして闘おうとするから、結局は綺麗に闘う為に相手のパンチが届かない所にいなければならないし、結果的に自分のパンチの、攻撃の届かない所で相手を見なければいけません。アルボーシャス選手の場合は、相手を倒しにかかってますから、何だかんだ前に前に出て行き、自分の得意のパターン、後ろ回し蹴りも得意なパターンだと思いますが、それに持って行きました。1ラウンド早々の渡辺選手に対しての様な波状攻撃が出来るか否かで、相手は強いパンチ等を受けてしまうと、自分の試合の組み立ても出来ないし何をして良いかもわからなくなります。ですから、その部分で勝負がありました。やはり、“強さ”です。決して“上手い”のではないとは思います。但しガードになってからの懐の深さはありました。渡辺選手はそれに上手く封印されてしまい、下から返されるという形でした。それをまた渡辺選手が凌ぐので、グラウンドでの攻防は互角、もしくは渡辺選手に分がありますが、スタンドの印象が悪すぎました。特に3ラウンド目に入ったらローキックも効いていたと思うし、もう懐には入って行けませんでした。ですが、それ程のダメージは見て取れませんでした。渡辺選手の良い所は、1ラウンド早々にグラウンドで上を取った時に思わず放ったパウンド、これ1発でアルボーシャス選手は鼻が折れてしまいました。直ぐに鼻血が出て、あれは止まらなかったので、凄くダメージがあったと思います。だからこそアルボーシャス選手は手を掴んで凌ぎました。その瞬間です。それを考えてしまう選手と、そこで感覚的に前へ出て行ける選手、この違いは何かと言えば、これはセンスとかそういう問題ではなく、相手を潰す、倒す為に闘っている選手と、勝ちたいと思っている選手との差です。

こじんまり上手く闘おうとしている選手と、絶対倒すんだと思っている選手。そこがこの1戦では良く見て取れたと思います。それが判定に表れたと思います。渡辺選手が28-29でポイントを取っている箇所もあるのです。ですからもっと取れたのです。もっと取る事により、相手のポイントを奪うと言う事なんです。そこのところが凄く残念だなと思います。2004年最後のパンクラスの試合で、自分がその大会のトリで、パンクラスの試合の象徴という風に考えても良いかもしれないし、メインイベンターというのは、それぐらいの責任感を負わなくてはいけません。メインイベンターだから1本取りに行かなくてはいけないし、1本取るからまたメインイベンターになれるのです。野球で言えば先発ピッチャーに起用されて、5回投げきれば良いと思っている選手と、全力投球で投げられるところまで投げようと思っている選手との違いです。上手くなって来て、力と技術が伴っている人は、配分をしながら9回投げられるだけの内容で、しかも要所を押さえることが出来る選手が上手くて強い投手だと思います。そういうものの中で、自分がどこに位置付けされているかと言ったら、まだ必死に闘う事です。序盤から飛ばしていき、殴られても何しても良い、どっちみち格闘技は殴られてしまうのですから、そしてスタミナが切れて倒れてそこでやられたら、メインイベトとして、それはそれで凄かった、頑張ったという称号が付きます。最後見て、相手も入れないし、必死だし、やる気が無かったり体力が無いのではなく、高い技術性の中で踏み込めないという所が見て取れても、お客様はそれは納得しませんし、厳しいお客様にはそれは伝わりません。それは向かい合った選手間に伝わるのみです。アマチュアならばそれで済みますが、それを何とかするところにプロがあるわけで、プロフェッショナルでメインイベンターになるのだったら、渡辺選手はどうか自分から殴られにいってでも良いから殴る、取られても良いから取るという、その危険を冒してでも倒しに行く事が、本当に強い選手になる道程です。渡辺選手は決して上手いタイプの選手にはならないから、己を知り、そういう闘い方になるべきだと思いました。

今大会の総括としては、これは何回も言いますが、強い選手と上手い選手の闘い方で優劣がついてきたという色合いが見て取れて、本当に強い選手の闘い方とは何だろう? 長谷川選手しかり、前田選手しかり、志田選手しかり、石川選手しかり、中西選手しかり。どんな形で彼等は輝いたのか? 自分のテーマ、バックボーン、自己信頼と閃きの中で闘える事です。現在の科学的トレーニングは、あまりにも世の中に普及し過ぎて、スポーツ界が駄目になっているという事。勘を頼りにする選手がいなくなったからです。第6感こそが、全てです。人間のやるスポーツ、競技、何かんだ言っても理屈ではないもの、何だか良く解らないけれど勝ってしまう人、何だか良く解らないけど凄い事をやりこなしてしまう人。そういう第6感というものが働く選手が、やはり人間味があり楽しいし、面白く、魅力的です。スポーツは、数学とかそういう公式で勝てるものではありません。人間同士がやり、イレギュラーがあるもので、それに閃きで対処した者が勝ちます。ですから魂を入れて闘ってもらう。これが2005年の私から選手に対するテーマです。お客様にはもっとシンプルに試合を観ていただけたらと思います。旗揚げ時のパンクラスの衝撃はお客様を唸らせませんでした。シ〜ンと波を打たせましたが、それはそういう凄さが各選手に出ていたからです。
マンネリになっていませんか? というのが2004年の厳しい一言だし、その中で強い選手というのがこの様に出て来ている事に、何か気付く選手が続いてくれたら良いなと思います。でも良い大会だったと思います。選手は一生懸命練習してますから、2005年もファンの皆様、応援して下さい。選手諸君はもっともっと強くなりましょう。