第3試合 ライト級戦 5分2ラウンド
武重賢司
(パンクラス稲垣組)

宮崎裕治
(総合格闘技道場コブラ会)
1R 1分53秒、KO/グラウンドのキック
■武重賢司(68.9kg)
■宮崎裕治(68.3kg)
レフェリー:梅木良則

 個人的な事を言えば、私はコブラ会の選手がすごく好きです。と言うのは、総体的にコブラ会の色が感じられて、指導する事、練習する事というのが、いわゆる肉体改造という言葉が世の中に出てきた時のパンクラスの選手達の様に、ある意味、意識がきちんと改革されている、そういう部分での意識の高さが見て取れて、そこがすごく好きです。宮崎選手もその部分でリングで映えるし、この日すごく好感の持てた選手した。それに対して武重選手は、過去に大きなダメージを負い、ブランクが出来てしまうと、試合の流れについていけないという事があります。パンクラスの過去の歴史の中でも大きなブランクがあったりすると、その間にリングが進化してしまいます。そうすると試合のリズム自体が違うので、技術的な部分での対応力という事ではなく、試合の流れに対する対応が出来なくて、後手にまわってしまう事があります。武重選手は、それを波に乗る他の選手達との練習で、そういうもののタイムラグを上手く埋めてきての試合だった様です。

 試合は序盤から宮崎選手が積極的に出ていき、武重選手が対処しながら、徐々に自分のペースに持ち込んでいくというところでの、1分くらいの攻防がありました。試合が動き出したの1分過ぎで、武重選手が粘った形の中から、離れても組んでも、少しづつペースを掴みました。その中でほんの一瞬スカして、ひき潰して、マットに手を突いたグラウンド状態の宮崎選手に対して、素早くややサイドに回りながら顔面にキックを放って、それが決定打となりました。

 先ほど言いましたが、隙あらば、どこからでも勝負を決する為の刀を抜けるかどうかです。その準備をお互いにしている中での結果です。倒してどうしてということばかりを訓練してしまうと、本来グラウンドキックで勝負がつく展開を、そのチャンスカードを引かないで、次の当たり前の、「じゃぁ、そこからもう一度がぶりなおして」とか、「そこから後ろについて」という事をしてしまったりすると勝機を逃してしまいます。そこで、勝つタイミングを強引に掴むというところに稲垣組の強さがあるような気がします。そういう意味では、武重選手はようやくみんなの波に乗れたという事の嬉しさよりも、安堵感が感じられました。勝った瞬間、通路の奥から仲間達が手を上げて、武重選手より先に涙を流しながら飛んできたという、それがもう一つの稲垣組の強さです。これは稲垣氏の人間的な指導力に尽きます。自分の試合をほったらかして我が事以上に涙を流して喜べるのは、武重選手が練習でどれぐらい苦しんでいたかを知っているから泣けるんです。それが仲間です。なぜ勝てたか? 宮崎選手に勝ちましたが、過去の大きなダメージを負った恐怖に打ち克ったからです。1年半経ったから忘れる、という事にはなりません。人間は、ケガをした体は色々なものを記憶しているし、細胞自体が憶えているし、動作自体が憶えています。それに打ち克つには繰り返し体を訓練、要するに考えなくても動けるというところまで落とし込まないと、まず恐怖に対し体を動かすことが出来ません。いよいよ今回武重選手は勝ちましたので、今度は恐怖から脱却する練習ではなく、勝った感覚を抱いて、皆と同じように練習が出来ると思います。武重選手は勝てて安堵したのではなく、皆と一緒に行けるという安堵感を私は感じ取れたから、そういう意味で、勝って驕る選手ではないですから、またそれを許す稲垣組長ではないので、次の試合は大注目です。宮崎選手もコブラ会らしい、積極的な闘いの中での結末なので、方針を変えたりしないで、今まで通りに闘っていけば絶対勝てると私は思います。頑張って欲しいです。

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