セミファイナル ウェルター級 キング・オブ・パンクラス タイトルマッチ 5分3ラウンド
暫定ウェルター級王者
井上克也
(和術慧舟會 RJW)
ランキング10位
アライケンジ
(パンクラス)
2R 4分30秒、レフェリーストップ/パンチ(スタンド)
■井上克也(74.9kg) セコンド:光岡映二
■アライケンジ(74.9kg) セコンド:高橋義生
レフェリー:廣戸聡一

 最後は崩れていくアライ選手を井上選手が連打で叩き潰しましたが、試合全体がそんな感じでした。序盤、30秒もいかないところで、両選手が見合った中でアライ選手の左のリードがものすごい勢いで入り、そこからのコンビネーションで井上選手は思わず後ろに尻餅を付くという、本当に衝撃的な試合の幕開けでした。井上選手は、多分その後暫く記憶が飛んでいたと思います。私がレフェリーでしたが、私のフットワークがもう少し速かったら、あそこで止めていたのではというぐらい勢いがあるアライ選手の良い攻撃でした。デビュー当時から思い切りの良い選手だと多々言ってますが、こういう追い詰められた試合の時は、アライ選手は本当に良い試合をします。でも、井上選手はさすがでした。その後立ち上がり、何とかいなし、普通ならばそれだけですが、ちゃんと攻撃をします。逆に深追いをしたアライ選手に返り討ちをする形で動きを止め、特に井上選手の右のパンチは素晴らしかったです。井上選手の右 vs アライ選手の左で1ラウンドは終始し、ややアライ選手に分があった様な気がします。この後一度、井上選手はドクターチェックを受けますが、口の奥が完全に切れ、もう一度切れたら試合が出来たとしても止めるという所まで追い込まれました。ですから、そこから盛り返してくる井上選手のハートの強さは、暫定王者に相応しいと思います。途中投げを打ち、アライ選手の攻撃の矛先を変えようとするクレバー振りも発揮してます。お互いレスリング出身ですから、逆に投げを封じ、自分の得意な膝蹴りに転じるアライ選手でしたが、2人の攻防が入れ替わり立ち替わり、攻守が一体となる本当に良い試合でした。有効パンチではアライ選手の手数の方が優ってましたから、本当に井上選手としては勝ちましたが、お互いに全力を出し切った試合で、薄氷を踏む思いの、一瞬本当に井上選手は負けも覚悟したと思います。それほどアライ選手は井上選手を追い込みました。

 さて、アライ選手で振り返ってみたいのは、1ラウンドに井上選手に尻餅を付かせた後、焦らずきっちりと攻撃して欲しかったということです。相手の真正面に立ってしまい、それがマイナスでした。有効打になり、相手に完全にダメージがあると判断した場合は、正面に立たない事が一番です。何故かと言うと、人間は苦しいと頭を真正面に下げるからで、本当に効いてる時に左右に頭を振ったり下げたりはしません。そして自分のいるところに向かって真っ直ぐパンチを打ってきますから、左右にいれば有効打にはなりません。逆に自分の顔面を守っていると、必ずミドル、ローは空くので、そこでワンポイントを入れて、既に相手にダメージを与えているのですから、ガードが下がったところを攻めるような、ゆとりのある闘い方が出来る様になると良いと思います。挑戦者という事で一気にいってしまいましたが、良い経験をしたと思います。曲りなりにもタイトルマッチですから、それを経験した事で自分のポジションというものを再確認したと思います。暫定王者 vs ランキング10位の試合とは思えないほど拮抗した、本当に良い試合でした。井上選手がきちんと王者になったあかつきには、もう1度アライ選手と試合をしたなら面白いし、SKアブソリュートの長谷川選手なんかがここに絡んでくるわけですから、パンクラスのウェルター級は本当に層の厚い、日替わりで王者が変わる様な高過密なクラスになるのではという、そんな予感をさせてくれる素晴らしい試合でした。

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