メインイベント ヘビー級戦 5分2ラウンド

高橋義生
(パンクラス)

桜木裕司
(掣圏会館)
2R 3分01秒、ギブアップ/アームバー
■高橋義生(93.2kg) セコンド:高阪剛
■桜木裕司(93.7kg) セコンド:瓜田幸造、長谷川秀彦
レフェリー:梅木良則

ほぼ同じ体重で、両者パンチャーという事で、試合前の下馬評はシバキあいだろう、どつきあいだろうという中で、実は高橋選手が打撃を封印するという事を3ヶ月程前から言って、しばらくの間、一切打撃の練習はしていませんでした。ですが打撃の練習をせずにグラップリングの練習ばかりをしていたら、スタンドレスリングが弱くなってしまいました。というのは、結局、総合というのは複合した格闘技です。大分以前に言いましたが、10得ナイフではありません。殴る時はこれ、組む時はこれ、倒したらこれ、極める時はこれといういくつかの自分がいるのではありません。総合格闘家という自分がいて、その自分が何も変える事無く、殴ったり蹴ったり潰したり投げたり極めたりする事が総合と言うならば、あるところだけは強くするという練習をしていくと、自分の形が崩れてしまいます。体のバランスが悪くなるので、しばらくして少しだけ打撃の練習を再開させると、そこからは感覚が蘇って来ました。試合は序盤から良い見合いでした。高橋選手は自分の打ちたい距離に入るという事は、相手に打たれてしまう距離に入る事です。でも、打ちたい距離のギリギリのところまで入って行かなければ、タックルは決められません。そして驚いたのは、パンチを使わないとは言っていたものの、見合いの時に騙しでパンチを出したり、関節を取りに行く際に、細かいパウンドなりを入れて相手を崩して腕を取りに行く等、要するにKOを狙うパンチは出さない事なのかと思ったら、打撃は一切出しませんでした。このフラストレーションは相当なものだったと思います。その象徴がテイクダウンを取り、上から桜木選手をコントロールしようとしたところで、下からのパンチに対し、普段の感覚ならば、ガードをしてすぐ返せば良いわけですが、パンチを使わず、自分を奮い立たす為にパンチを受けに行ったのは、並大抵の事ではありません。それでも、パンチを受けに行きながら、相手の心を折りに行きました。今大会 “覚悟”というキーワードを決めていましたが、殴られて良いという覚悟をして、殴られ、カウンターでタックルを取りに行く、正に肉を切らして骨を断つ。100%無傷はありえないという覚悟で、距離を詰め、一気にテイクダウンを取りに行く大胆さは、男の信念です。心が鋼で出来ている桜木選手の上を行った、という感じだと思います。

それが旗揚げメンバーの、パンクラスを作って来た選手の強さの様な気がします。現在は高橋選手一人ですが、彼は人生を積んで来て、より一層それを感じているんだと思います。だからこそ、チーム名はという話になった時に、「僕がパンクラスです」と、あの男があえて口にしたわけです。「2、3番手の気楽なところにいさせてもらいます」と言っていた男がここに来て、「パンクラスのエースは近藤選手だけれども、僕がパンクラスです」と言い放ちました。これは男の思い、覚悟が感じられます。ただ単にパンチを出さなかったと言えど、これは練習でも中々できません。しかもパンクラスの重量級2人を倒している桜木選手を相手にして、並大抵の気持ちではありません。勝った負けた、良い悪いではなく、パンクラスファンの方々には、そういうところを見てもらいたいです。自分の、この闘い方を見てもらいたい!というものが、今回この大会のリングに多く見られました。各選手の覚悟が勝負を超え、お客様に飛んでいくという事、浮ついたちゃらちゃらしたところが無いところに、パンクラスリングを垣間見られました。それぞれに紆余曲折ある人達が力を付け、リングに戻って来たというテーマが、今大会にはあったと思います。それを支えたのは、勇気、覚悟、です。その覚悟、が私達第三者に勇気を与え、一つの勝利を美しく見せるのではないでしょうか。そんな風に考えさせられた今回の横浜文化体育館大会でした。