第4試合 ヘビー級戦 5分2ラウンド

桜木裕司
(掣圏会館)

アスラン・デゼボエフ
(マルプロジム)
2R 1分31秒、KO/左ミドル
■桜木裕司(91.7kg) セコンド:瓜田幸造、長谷川秀彦
■アスラン・デゼボエフ(98.4kg)
レフェリー:梅木良則

デゼボエフ選手は基本的に、殴るにしても、何にしても極めが強いです。強いホールディング、強い圧迫、強い打撃というモノに対して、桜木選手がどういう展開で自分らしさを出して行くのかというところで注目の試合でした。試合は正にその様な展開になり、1ラウンドの段階から、強い打撃を直線的に駆使しながら入って行くデゼボエフ選手に対して、ある程度の距離を取り、自分のリズムでの展開を狙って行く桜木選手。細かいパンチを小さく受けながら、グラウンドになった時点で、強いパウンドを受けたりと、危機一髪の状態でした。相当強いパウンドも受けたので、ダメージとしてはあるのでしょうが、生来の打たれ強さ、そして何と言っても心が折れないところが凄いですし、集中しているのが見て取れます。ですが、リングの下から選手の生命、健康という事を管理している、我々レフェリー陣としては、ワンパンチで大きな怪我に繋がってしまう階級なので、本当にスリリングな試合です。それなりの身体の打たれ強さ、丈夫さ等も手伝いながら、紙一重の連続という形の中で試合をしながら、ラウンドが変わり2分内での勝利ですが、心を切り替えて行くという所が凄く早いのかもしれません。

1ラウンド、桜木選手は圧倒され、ダメージを負った中で、本当に見透かした様な、自分の距離のミドルを綺麗に決めてのKO勝利でした。本当に立派です。彼のミドルキックは、膝が直線的に入ってくる回って来ないミドルです。オープンになって回って入って来る蹴りではないので、相手が直線的に前後に間を詰めようとして来る時や、相手がその脇間に止まった時に距離感が合うと、本当に破壊力のある蹴りになります。今回もそれが出たという事だと思います。デゼボエフ選手は2ラウンドで攻め疲れがありましたので、そこで体が開いた時にミドルキックというところではあるんですが、デゼボエフ選手が攻め疲れしてしまう程の攻撃を、ガードをしながら、耐えて自分のチャンスを待ったとういうところで、桜木選手のらしさ、そういうしかありませんが、そういう展開でした。1ラウンド途中での、グラウンドでのコンプリートしながらの右のボディーブロー等は、デゼボエフ選手は秀逸でした! 相当強いプレッシャー、インパクトを桜木選手のボディーに与えていました。当たる角度がもう少し良ければ、骨も折れるというパンチだったと思います。そういうモノを耐えての桜木選手の1勝です。これで3勝1敗ですが、3勝全戦逆転勝ちです。これは桜木選手が試合で一喜一憂していないで、勝つところに集中しているところが、逆転勝利の一つの大きな要素だと思います。

これは格闘技の試合等関係なく、何事も、日常の仕事もそうですし、色々な日常で起きる事全てそうなのですが、今の一番悪い風習の一つは、これをやったらこれ、これをやったらこれ、これをやったら最後こうなる、というセオリーを作り出す事です。そのセオリー通りに進むという事が、要するに計画通りに物事が進み、ミッションを遂行したという事で、それが出来れば凄く良いことです。ですが、人間のやる事というのは、自分自身一人がする事ではありません。そんなものが通用するのはコンピューターゲーム位のものです。相手が機械であればイレギュラーがありません。特に“人間”対“人間”、“人間”対“自然”というものはイニシアチブが自分にはありません。ですから、そういう中で、セオリー通りに物事を進めようとしている時に、必ず現実とのギャップというものが起きます。そのセオリーというものも、皆さんある種、絶対と思っていますが、それは世の中にある法則ではありませんから、イレギュラーは起きるべきものです。そのセオリーが上手くいくというのは、事前に人間がインプットした想像力でしかありません。自分の想像力を超えた現実が来た時に、多くの今の若い人達は、立ち往生してしまいます。立ちすくんでしまいます。桜木選手はちょっと目の前にある物ではなく、最終的に勝つんだというところでの、大きな意思というものによって、目の前、目の前で起きた事に対して、全力で闘っているから、こういう大逆転が起きるのだと思います。今このパンチを全力で打たなかったら、次のパンチを打つチャンスはありません。それを次の展開になったらこうしようと思っている間にずるずるずるずる行ってしまうというのが、競技のエアーポケットとしてあると思います。ですから彼に根性があるとか、そういう事ではありません。どの選手もパンクラスのリングに上がってこられるレベルなので、根性もあるし練習もしているわけですし、そういう水準は持っています。ただそれが練習で根性を出し切っているのか、その練習での根性は、最終的に試合で勝つ為の根性であるのかと考える時に、桜木選手は凄く立派に大志を抱いています。彼を育てている目上の方々が、多分厳しい態度と、厳しい言葉で、いつも彼を育てているのだと思います。指導する側と、受けている側が、きちんとピンポイントで合っている事が大切です。指導者と、指南される人間のそういう物がきちんと重なっている事と、目の前の出来事よりも、最終的に求めるために、常に目の前の事を全力でしようとしている、この姿勢が桜木選手の大逆転劇の要素だと思います。根性、打たれ強さは要因でしかありません。そこのところでは、本当に立派だと思います。

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