第5試合 ライト級戦 5分3ラウンド

矢野卓見
(烏合会)

クンタップ・ウィラサクレック
(ウィラサクレック・フェアテックスジム)
1R 4分38秒、レフェリーストップ/アームバー
■矢野卓見(67.5kg)
■クンタップ・ウィラサクレック(68.3kg) セコンド:山本喧一
レフェリー:梅木良則

現役ムエタイ王者のクンタップ選手は、ある種、ミルコ・クロコップ選手と同様で、KNOW/HOWとして、技の種類、関節、グラウンドの種類を知らないだけで、強い打撃、強いバランスを持ち、感覚的に自分の間合いを持っていたり、闘うセンスを持っている選手は、知らなかろうが、何だろうが、やっていけるという、その質の高さ、そういうモノが凄く見て取れました。パンクラス負けなしの矢野選手は、1本を取る奪取率、これは桜木選手の試合でも言いましたが、最終的に勝つという所に留めていないところが、高いKO率、勝率を約束していると思います。勝ち負けではなく、1本取るために試合をしている矢野選手の執拗な姿勢と、そのチャンスが来るまで、自分の形を崩さず耐えていられる事が結果として勝ちに繋がっています。現役のムエタイ王者に蹴らせるだけ蹴らせて、蹴らせたところを狙う。これを言うのは簡単ですが、あなた現役ムエタイ王者に蹴られてみなさいよ、と言いたいです。のべつ幕なしに蹴らせたら、ローキックの後に、反対側にミドルが来たり、ミドルキックの後にハイキックが来たりと、相手の好きな攻撃が出来てしまいます。立ち技に対してカウンターで取って、相手を捕らえるというのは、相当難しい事です。ですから矢野選手は今回本当に怖かったのではないかなと思います。

彼の構えは、一本を取るための構えで、そういう意味では桜木選手とは形は違いますが、何を見て、何を意識してリングに上がっているのか、という点をアマチュアの選手は、学ぶべきだと思います。それがアマチュアの大会でタイトルを取る為の一番近道だと思います。技術の上手い下手=強い弱いではありません。ですからそういう意味では、矢野選手の怖くても凌ぎ通す強い心の姿勢を学んで貰いたいです。それにしても、クンタップ選手の出力は強かったです(笑)矢野選手が、衝撃を緩和する為にバックステップを入れながら後ろに下がっていた時に、プッシング気味のパンチが入ったとはいえ、トップロープから下に落ちてしまう様な試合は中々見られません。矢野選手は驚いたと思います。試合の後に矢野選手に聞いたら、落ちた時に下の椅子がクッション代わりになって大丈夫だった。なんて冗談で言っていましたが、相当びっくりしたのではないかなと思います。この試合の秀逸さというのは、1ラウンド前半で、矢野選手が足関節を取りに行きます。そこでクンタップ選手は、足関節の攻防をセオリー通りに行わないというところが、そこから脱出出来た一つの要素だと思います。セオリー通りで行ったならば、経験者と未経験者の差がはっきりと出てしまいます。それに対して、ただ単に原始的に殴る蹴るで、暴れて抜け出るわけです。でも、それが大切な事だと思います。セオリー通りに行かず、自分のクオリティーによって自分の苦手なモノを克服していくところにプロらしさがあります。そういう点では、本当に面白かったです。クンタップ選手の強さ、これもハートの強さです。普通であれば、あの様に取られたら、体が固くなってしまうのですが、取られている足を気遣いながらも、余った手足で、相手にダメージを与え脱出します。が、これは最も基本的な事です。いうならば、そういう闘い方こそがセオリーです。闘う心の姿勢、というセオリーです。技術のセオリーというもので試合を組み立てて行ってしまうと、凄く試合が平べったい物になってしまいますが、そういう意味では凄く立体感のある試合になりました。

その高いクオリティーの選手に対して、矢野選手が更なるクオリティーの高さを見せました。レフェリーから見ると、矢野選手の関節技というのは、基本的に相手を気遣っています。一気に持って行きません。今回も関節を絞り、腕の可動域を塞いで、そこからじわりと技をかけてくれました。担当の梅木レフェリーは関節から筋の切れる音が少しずつ聞こえたという事で止めたと聞きました。そういう技の掛け方をしてくれるという事は、余程きっちりはまっていなかったら無理です。加減をしながら持って来てくれる関節技、という事は技が完成した時点で詰んでいます、勝負ありです。ですから、痛くもない、効いてもいないのに何で止めたんだ、と言わせて貰っている程、ありがたいという結末です。これがもう少しレベルの低い選手ならば、取って、あわてて力で関節をひっくり返して来ます。その時に思い切りダッン!と衝撃が入れば、その衝撃で人間は驚いて、関節がやられたという事を感知できますが、コンプリートされた技は危機感が相手に伝わらない部分があります。蹴られて、殴られて、場外に吹っ飛ばされ、それを知らぬ間に位置取って技を極めたという、一見すると、大逆転の様に思えます。ですが、適度なところで蹴らせて、適度なところで受け流しています。本当にまともにあたって吹っ飛んでいるわけではなく、受け流している中でふっ飛んでいます。適当に自分の間合いの中で闘っていながら、チャンスと見たら、きちんと固め、安全に技を仕掛けるというところでは、本当に100点満点の試合だった様に感じます。
誰がこの矢野ワールドを崩すかというところが今後注目です。

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