第6試合 無差別級戦 5分2ラウンド

佐藤光留
(パンクラスism)

小椋誠志
(パンクラス チーム玉海力)
1R 4分16秒、ギブアップ/チョークスリーパー
■佐藤光留(85.2kg) セコンド:伊藤崇文
■小椋誠志(143.6kg)
レフェリー:小菅賢次

佐藤選手はこの試合の前にも、プロ・アマオープンキャッチレスリングトーナメントに出場と、相変わらずの破天荒ぶりで佐藤光留らしいです(笑)。何と言っても熱い男で、自分の信念を持ち、トレーニング等をしていても、物凄く集中して練習する選手です。今回、体が物凄く大きくなっていました。体重を85.2kgにしてきた佐藤選手は、自分の動きとして、動き難いと言っていました。試合以前はスピードが鈍く、82kg位まで落とすか悩んでいましたが、落とさなくて良かったのではと思った試合でした。小椋選手は見た目よりも、実際に目の当たりにして動いてもらうと、パンチや動きが速いです。凄く見難いパンチを出すことが出来ます。多分練習通りにパンチが出て来たら、小椋選手はワンパンチで勝てるんじゃないかなと思う位、速く動ける選手で、膝蹴り等も上手で、見た目よりも器用な選手です。143kg、198cmの小椋選手と85kg、174cmの佐藤選手、この体重差、身長差の中で、佐藤選手はどうやって動くのか気になる試合でした。

突破口を開いたのは、小椋選手の前足を殺すべく、大変素早いタイミングで小さくこつこつ当てていくローキック。序盤から、これが凄く良く入っていました。そして今回佐藤選手が良かったのが、蹴って動く、動いて蹴る、この出入りがちゃんと出来ていた事です。これが、小椋選手の豪腕右ストレートをカウンターで受けなかった最大の要因だった気がします。あの身長差があって、真正面に立ちローを打つと、間違いなく2回目はタイミングを計られ、右ストレートを浴びせられますが、それが出来なかったのは、佐藤選手が上手く足を使ってきちんと動いていたからです。小椋選手はちょっと固かったのかもしれません。練習時の柔らかさが足りなかったみたいで、左ローの対処が出来ていませんでした。これは良くあることですが、あの様なスピードに乗せたローはあまりダメージに重点を置かなくても良いケースがあります。特に今回の様な体重差がある場合は、そのままにしてしまう癖があります。知らず知らずの内に前足に重心、体重がかけられなくなって、どんどん自分の構えをぶらされてしまう事があります。倒す攻撃ではなく、くずす攻撃を、そのままやり過ごしてしまった事、これがまず小椋選手は誤算だった気がします。しかし、懐に入り、何とか崩そうとする佐藤選手を冷静に対処して上からがぶった時には、もうこのまま小椋選手が勝ってしまうだろうな、と一瞬思いました。更に言うと、このままもう少し角度が悪くなったら、佐藤選手の腕が折れてしまうので、早くホイッスルを吹かなければいけない、という危機感を持たせる、そんな上からの攻撃でした。そこに無差別級の怖さ、旗揚げ時のパンクラスリングを垣間見る様な、地味で判らないけれども、試合をしている選手達には物凄く怖い世界がありました。

乗っかられているだけという攻撃ではないものが戦慄として、無差別級にはあります。最終的には佐藤選手が下から上手く重心を狂わせ、足首を取りに行ったのが、小椋選手にゲームメイキングをさせなかった一つのキーポイントでした。佐藤選手は上からの攻撃を何とか凌いで、足首を取りに行き、流れを自分に引き寄せました。その後、フロントチョーク気味に上からがぶられましたが、その時、佐藤選手は半分落ちたと言っていました。ですからそういう意味では小椋選手のパワー、重量そして技術も兼ね備えていたと思いますし、その位“チーム玉海力”は練習をしていました。わたしはその練習を見ていますし、実際に指導もしました。広尾の道場でミットを叩いて、ラダートレーニング、ジャンピングトレーニング等の、普通、重量級選手がしんどくてやらない練習をしているのを見てきました。そういう点では、佐藤選手も認めていたと思います。だからこそ、ああいうトリッキーな闘いをしたのだと思います。その中で佐藤選手を褒めたいのは、機会を見逃さず、ガードポジションだろうと何だろうと、一気に攻めに出て行けた事です。これも出来そうで出来ません。あれだけの体格差があり、下からの突き上げがあるという風になると、そのまま前にかぶりすぎて、逆にパンチをくらうケースもあるし、下からの攻撃もあるわけです。佐藤選手は、一気によく上から攻めて行ったと思います。試合はその部分、小椋選手のガードポジションへの、佐藤選手のパウンドが勝負の分かれ目となりました。佐藤選手の良いパンチが何発か入り、そこで小椋選手が回転して、背中を向けるというところで、上手く戻しながら、しかも一回崩れて、小椋選手がそこから出ようとしたところを、上から佐藤選手が押し潰して、もう一度パウンドに持ち込みました。勝負に対する執拗さ、出力、そういう点で無差別級の試合をしているんだという、相手が大きかろうが、自分が勝つんだという、そういうところが“ism”というものを佐藤選手が十分意識しているのが感じられます。それが最後のチョークスリーパーからギブアップに繋がったと思います。

後は、試合後の、マイクパフォーマンスで“チーム玉海力”の事を語っていますが、これはほっとして気が緩んだのだと思うのですが、佐藤選手は自分が闘った相手達を卑下する必要はないし、その様な事をすれば自分の勝利の価値が下がる事になりますし、口を慎むべき事です。小椋選手は立派だったと思います。同階級の選手と試合をしていたなら、もしくは河野選手と変則のリターンマッチで試合をしたなら、良い試合をすると思います。良い負けっぷりといったら変ですが、それ位要所要所に、ここ1年を費やし自分の意識を変えて来た努力が、この4分16秒には含まれていると思います。正に、仕切り直しをして、力水をしっかり受け、また挑戦してもらいたいなと思いますし、“チーム玉海力”には、そういう思いを馳せています。佐藤選手があの様に叫ぶよりは、玉海力選手が顔色一つ変えず、外れた腕をそのまま振りながらリングを降りて言った姿の方が数段格好良いと思いました。佐藤選手はもっと人生を積むべきです。

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